はじめに

2026年9月14日、3GPP はスペイン・マドリードで開かれた TSG RAN#113(9月14〜17日)に向けて、5 つの無線作業部会(RAN1〜RAN5)の議長報告の要約を公開しました。物理層を担当する RAN1 は、8月24〜28日にオランダ・マーストリヒトで開いた RAN1#126 に 707 名が参加し、1,767 本の寄書を扱ったと報告しています。そこで 6G の無線技術 6GR(6G Radio) について、上り回線の LDPC 符号に第 3 のベースグラフ BG3 を載せる条件、同期信号ブロック(SSB)の幅と長さ、変調方式を「5G と同じ一様 QAM のまま」にする結論など、6月の RAN 総会から宿題として課されていた判断がそろって出ました。

同じ報告には、5G-Advanced(Rel-20)側の話も並びます。GNSS が使えなくても衛星につなげる NR-NTN(スタディ完了、仕様化へ)、電池なしタグ Ambient IoT の第 2 段(進捗 55%)、通信と一体化したセンシング ISAC(TR 38.765 完成)です。

「6G」の報道は速度や年号が先に立ちがちですが、3GPP の一次資料には「1 つの SSB は 20 リソースブロック」「BG3 の情報列は 44」「LEO 600 km の S 帯で往復遅延の差は最大約 287 µs」といった、回路や電池寿命に直結する数字が書かれています。筆者は 3GPP の会合に出ていませんし、6G の端末も持っていません。この記事は、3GPP のニュース記事と、そこで参照されている TDoc(会合寄書)の原文、公開済みの技術報告書 TR、5G の仕様書 TS を読んで、何が決まり、何がまだ決まっていないかを整理したものです。

この記事で扱うのは次の 6 点です。

  1. 基礎 — 6GR の標準化はどの段階にあるのか(Study Item と Work Item)、LDPC の「ベースグラフ」とは何で BG3 が加わると何が変わるのか、SSB は何を決めるのか、NTN が「GNSS に頼らない」とはどういうことか、Ambient IoT の端末は何で動くのか
  2. 何が決まったか — RAN#113 に報告された決定事項を、項目 × 決定内容 × 一次の TDoc の表で
  3. 日程の図解 — Rel-20 のスタディから、12 月の次回総会、Rel-21 の凍結まで
  4. 電子工作の読者への接続 — Ambient IoT とエネルギーハーベスティング、NTN と自作の GNSS ロガーや LoRa 端末の関係
  5. 筆者の見方
  6. まとめと FAQ
⚠️ 出典と時点

本記事の事実・数値は、3GPP のニュース記事「Working Group Reports to RAN Plenary #113」(2026年9月14日)、TSG RAN#113 の TDoc(RP-261577・RP-261879 とその添付の RAN1 合意集・RP-261632・RP-262006・RP-261618・RP-261644・RP-261583)、TSG RAN#112 の RP-261117・RP-261559・RP-261568、TSG RAN#108 の RP-251881、RAN1#126 の TR 38.760-1 v0.5.0 草案(R1-2606929)、TR 38.742 v20.0.0、TS 38.211/TS 38.212 v19.4.0、3GPP の Rel-21 日程記事、RAN#114 の招待状 にあるものだけを使っています(いずれも 2026年9月19〜20日に 3GPP の Web サイトと FTP から取得)。X(旧 Twitter)の投稿は出典に使っていません。TR 38.760-1 は RAN1 の作業中の草案(v0.5.0)で、内容は今後の会合で変わりえます。3GPP の議長報告に書かれていないこと、筆者が原文で確認できなかったことは、本文中で「筆者未確認」と明記します。

📌 この記事の3行まとめ
  • 6GR の物理層の骨格が数字で決まり始めた。 上り LDPC の新ベースグラフ BG3 は、最大上り帯域 20 MHz 以下の端末を除いて能力申告つきで必須。SSB は 5G と同じ 20 RB 幅で、時間方向は 4〜7 OFDM シンボル(作業仮定)。変調は 5G と同じ一様 QAM のままで、コンスタレーション整形は合意に至らず打ち切り。DL 4096QAM は合意なし、UL 1024QAM は固定無線(FWA)限定なら RAN1 が推奨
  • Rel-20(5G-Advanced)では「端末を軽くする」2 本が走っている。 GNSS がなくても衛星に上り送信できる NR-NTN は、スタディ(TR 38.742)を終えて仕様化の Work Item に入り、進捗 25%。電池なしタグの Ambient IoT 第 2 段は、屋外・能動デバイス・位置推定へ広げて進捗 55%。どちらも 2027 年 3 月に中核部分を完成させる計画
  • 次の節目は 12 月 7〜10 日のボストン RAN#114。 6GR スタディの完了目標は 2027 年 6 月で、Rel-21(最初の 6G 仕様)はパッケージ承認 2027 年 3 月・Stage-3 凍結 2028 年 12 月・ASN.1 凍結 2029 年 3 月と決まっている

🧭 1. まず基礎 — 6GR の標準化の段階・LDPC のベースグラフ・SSB・NTN と GNSS・Ambient IoT

本論に入る前に 5 つのことを押さえます。すべて 3GPP の SID/WID(スタディ/ワークアイテムの記述書)、TR、TS に出てくる範囲です。

1-1. 6GR とは — Study Item と Work Item、そして「進捗 51%」の読み方

6GR(6G Radio) は、3GPP が 2026 年 6 月 9 日のシンガポール総会で正式に決めた用語で、6G の無線アクセス技術そのものを指します(6G RAN=無線アクセス網、6GC=コア網、6GS=システム全体、と並ぶ)。5G の無線は NR(New Radio)でしたが、6GR は SID に「5G NR と後方互換性のない 1 つの新しい無線アクセス技術(one non-backward compatible radio access technology)」と書かれています。互換性を捨てる代わりに、「同じ機能に複数の選択肢を持たせない」「設定と端末能力の申告を減らす」が設計原則として明記されています。

3GPP の仕様は、次の 2 段階でできあがります。

  • Study Item(SI・スタディ) — 候補技術を評価して技術報告書 TR にまとめる段階。仕様ではない
  • Work Item(WI・ワークアイテム) — TR の結論をもとに技術仕様書 TS を書く(あるいは既存 TS を改訂する)段階。「Core part(中核)」と「Performance part(性能要件)」に分かれることが多い

6GR は現在 Study Item です。「Study on 6G Radio」(FS_6G_Radio)は 2025 年 6 月のプラハ総会 RAN#108 で承認され(RP-251881、モデレータは NTT ドコモ)、RAN1 が主担当、RAN2/RAN3/RAN4 が各自の側面を分担して、それぞれ TR 38.760-1〜-4 の草案を育てています。RAN#113 に出された状況報告 RP-261879 によると、完了目標は 2027 年 6 月、全体の完了度は 51%(報告者は NTT ドコモ・China Mobile・AT&T・Vodafone)。3GPP の状況報告には「順調」「遅れあり・総会の介入が要るかも」「深刻に遅れ」の 3 色の区分があり、6GR は「順調」の色で報告されています。

この「%」は、SI の目標項目に対する消化度合いで、RAN 総会が各作業部会に割り当てる TU(Time Unit、1 TU ≈ 会合 2 時間) の予算と対になっています。RAN1 議長報告によると、RAN1 に総会が割り当てた 1 会合あたりの TU は 6G スタディが 16 TU、5G-Advanced の AI/ML が 2、MIMO が 1、NTN の GNSS 耐性が 1、Ambient IoT が 3.5、保守が 4 + 0.5 で、合計 28 TU のうち 6G が 57%(筆者の計算)を占めます。RAN1#126 では 6GR の議題だけで並列 3 セッションを回し、オンライン討議 4,370 分・オフライン 3,060 分を使ったと報告されています。

もう一つ大事なのがチェックポイントです。SID には「2026 年 6 月の RAN#112 までに RAN1 は波形・変調・チャネル符号化の拡張範囲と、同期信号の基本構造を暫定評価する」と書かれ、RAN#112 はさらに「上りの BG3 の端末能力」「コンスタレーション整形の採否」「高次変調」「6GR SSB の帯域幅」を 2026 年 Q3 までに結論せよと RAN1 に課しました。今回の RAN#113 報告は、その宿題の回答です。

6GR スタディの後ろには、6 月に決まった Rel-21 の日程が控えています。3GPP は Rel-21 を「最初の 6G 仕様を含むリリース」と位置づけ、パッケージ承認と Stage-1 凍結を 2027 年 3 月、Stage-2 凍結を 2028 年 6 月、Stage-3 凍結を 2028 年 12 月、ASN.1/OpenAPI 凍結を 2029 年 3 月と定めました(RP-260868)。6GR の TR を 2027 年 6 月に完成させ、Rel-21 の Work Item に引き継ぐ、という流れです。

💡 ワード解説:6GR の対象周波数と帯域幅

SID(RP-261559)によると、6GR の検討対象は 52.6 GHz までで、FR1(〜7.125 GHz)の全域、FR1 と FR2-1 の間の「7 GHz 前後」、FR2-1(24.25〜52.6 GHz)を含みます。7 GHz 前後では少なくとも 200 MHz のチャネル帯域幅を支え、既存の 5G ミッドバンド(〜3.5 GHz)の基地局配置をそのまま使って同等のカバレッジを狙う、と書かれています。TR 38.760-1 草案では、サブキャリア間隔は 6 GHz 以下で 15 kHz(FDD)/30 kHz(TDD)、7 GHz 前後で 30 kHz、24.25〜52.6 GHz で 120 kHz。1 スロット 14 シンボル、無線フレーム 10 ms、1 RB=12 サブキャリアという NR の骨組みは引き継ぎます。低価格帯の端末向けには、最小の最大チャネル帯域幅を 20 MHz(TDD 30 kHz/FDD 15 kHz)と決めています。

1-2. LDPC の「ベースグラフ」とは — BG1/BG2 に BG3 が加わる意味

5G NR のデータチャネル(PDSCH/PUSCH)の誤り訂正符号は LDPC(低密度パリティ検査符号) です。LDPC 符号は「パリティ検査行列 H」で定義され、受信側は H の各行(検査式)と各列(ビット)の間で確からしさをやり取りする反復復号を行います。H の 1 の数(グラフの「辺」の数)が、復号器が 1 回の反復で処理する量に直結します。

NR の LDPC は 準巡回(quasi-cyclic) という作り方をしていて、小さな「ベースグラフ(BG)」——各要素が「Z × Z の巡回シフト行列」か「零行列」かを示す骨格——を、リフティングサイズ Z だけ拡大して実際の H を作ります。TS 38.212 には 2 つのベースグラフがあります。

BG1 BG2 BG3(6GR・検討中)
行 × 列 46 × 68 42 × 52 未確定(5 つの部分行列 A〜E で構成)
情報ビットの列数 22 10 44
最大符号ブロック長 8,448 ビット 3,840 ビット 8,448 ビット
最大リフティングサイズ Z 384 384 192
マザー符号化率 約 1/3(22/66) 約 1/5(10/50) 約 2/3
用途 長いブロック・高い符号化率 短いブロック・低い符号化率 NR の範囲を超えるデータレート

BG1 と BG2 の使い分けは、TS 38.212 の 6.2.2 節(上り)/7.2.2 節(下り)に「トランスポートブロックが小さいか、符号化率が低いなら BG2、それ以外は BG1」という規則で書かれています。マザー符号化率が低い BG2 は、たくさんのパリティを持っている分、劣悪な回線で粘れる。BG1 は長いブロックを高い率で送るのに向く。この 2 つで 5G は成り立っていました。

6GR で検討されている BG3 は、TR 38.760-1 草案の 5.3 節に「NR の範囲を超えるデータレートのための新しい BG」として書かれています。数字で見ると性格がはっきりします。

  • 情報列は 44(BG1 の 2 倍)、最大リフティングサイズは 192(BG1 の半分)。44 × 192 = 8,448 で、最大符号ブロック長は BG1 と同じ
  • マザー符号化率は 約 2/3。つまり BG1(1/3)よりパリティの行がずっと少ない
  • 「最大ブロック長のとき、リフト後の検査行列の 1 の総数は、BG1 を 1/2 以上の符号化率で使ったときの 1 の総数を超えない」という復号器の処理量の上限が、設計条件として明文化されている
  • 構造は、情報ビットに対応する部分行列 A、コアのパリティ部分 B(重み 3 の列+二重対角)、零行列 C、拡張部分 D、そして E。RAN1#126 では E を「下三角行列(次数 1 より大きい列が I 本未満)」とし、単位行列にはしないことが合意された(Option E2)

筆者の読みを添えると、BG3 は「同じ 8,448 ビットのブロックを、復号器の辺の数を増やさずに、より高い率で流す」ための骨格です。7 GHz 前後で 200〜400 MHz の帯域を使い、MIMO のレイヤを重ねると、5G の設計上限を超えるビットレートが基地局と端末の復号器に流れ込みます。BG1 を高い率にパンクチャして使うより、最初から高率向けに辺を配置した BG3 のほうが、同じ復号器資源で高いスループットを出せる——TR に書かれた「1 の総数の上限」は、この意図の裏返しだと考えています(これは筆者の解釈で、TR にそのままの文言はありません)。

適用条件も決まりつつあります。TR 草案では、下りは端末に設定された全キャリアの合計データレートが 約 12 Gbps(例:400 MHz・4 レイヤ・1024QAM)、キャリア単独で 約 6 Gbps(例:200 MHz・4 レイヤ・1024QAM)という閾値で 4 つの場合分けをし、閾値以下なら「BG1/BG2 は必須、BG3 は網が追加で設定できる(端末の対応は任意)」、閾値を超えるなら「BG1/BG2/BG3 の組を使う」としています。上りは「BG1/BG2 は必須、BG3 は網が追加で設定できる」が出発点でした。

そして今回、RAN#112 から課されていた「上りの BG3 を端末に必須にするか」への RAN1 の回答が出ました。

上りの BG3 対応は、能力申告つきで必須。ただし、対応するどの帯域でも最大上りチャネル帯域幅が 20 MHz 以下の端末は任意。それ以外の例外が要るかは RAN 総会の判断に委ねる(RAN1#126 合意、RP-261879 添付・RP-261577)

「20 MHz 以下」は、1-1 で触れた低価格帯端末の最小帯域幅と同じ数字です。IoT 寄りの端末には BG3 の復号器を積ませない、という線引きだと読めます。

flowchart TD A["トランスポートブロック"] --> B{"5G NR の規則
TS 38.212"} B -- "小さい/低率" --> BG2["BG2
10 情報列・率 1/5"] B -- "それ以外" --> BG1["BG1
22 情報列・率 1/3"] B -. "6GR で追加
NR 超のレート" .-> BG3["BG3
44 情報列・率 2/3
UL 20MHz 超で必須"]

1-3. SSB(同期信号ブロック)が決めること

携帯端末が電源を入れて最初にやるのは「基地局を探す」ことです。基地局は、端末がまだ何も知らない状態でも見つけられるように、決まった形の信号を、決まった周期で、常に送っています。それが SSB(Synchronization Signal Block、同期信号ブロック) で、3 つの部品からできています。

  • PSS(一次同期信号) — 端末はまず PSS の相関を取って、OFDM シンボルの境界と、セル ID の一部(3 通り)を得る
  • SSS(二次同期信号) — セル ID の残り(336 通り)。PSS と合わせて 1,008 通りの物理セル ID が決まる
  • PBCH(物理報知チャネル) — 最小限のシステム情報 MIB。フレーム番号や、次に読むべき SIB1 の場所

5G NR では、TS 38.211 の 7.4.3 節に「SS/PBCH ブロックは時間方向に 4 OFDM シンボル、周波数方向に 240 サブキャリア(=20 RB)」と定義されています。PSS は長さ 127 の m 系列、SSS は 2 本の m 系列から作る Gold 系列で、いずれも 127 サブキャリアを占めます。初期セル探索での既定周期は 20 ms(TS 38.213)。

SSB の設計が決めるのは、次の 3 つです。

  1. 端末がどれだけ聞き続けるか — 周期が長いほど、初期探索やアイドル時の測定で端末が待つ時間が延びる(電池に効く)
  2. 基地局が「誰もいなくても」何を送り続けるか — SSB は常時送信なので、周期を延ばしたり繰り返しを減らせば、網側の消費電力が下がる
  3. どこまで届くか — 7 GHz 前後は 3.5 GHz より伝搬損失が大きい。同じ基地局配置でカバレッジをそろえるには、SSB を繰り返して端末側で合成させるなどの工夫が要る

RAN1#126 で決まった(あるいは作業仮定になった)6GR SSB の骨格を、NR と並べます。

5G NR の SSB 6GR の SSB(RAN1#126 時点)
周波数方向 20 RB(240 サブキャリア) 20 RB(合意)
時間方向 4 OFDM シンボル固定 X シンボル、4 ≤ X ≤ 7、1 つの SSB は X の単一値で定義(作業仮定)
PSS の幅 127 サブキャリア(20 RB の中央) 12 RB(合意)。系列は m 系列/ZC 系列、長さ 127 または 127 < L ≤ 144 を検討中
SSS Gold 系列・127 Gold 系列を基準に検討中
物理セル ID 1,008 1,008 が基準。PSS と SSS で全情報を運ぶ
初期探索の既定周期 20 ms 20/40/80/160 ms の 5 案を評価中(周期を延ばす案は SSB の繰り返しと端末側の合成を前提)
3 MHz 幅での運用 20 RB を 12 RB にパンクチャ 15 kHz で 3 MHz 超のチャネル帯域幅を前提に設計

時間方向を「4 固定」から「4〜7 の可変」にした理由は、原文には直接書かれていません(筆者未確認)。ただ、周期の 5 案が「160 ms 周期+周期内繰り返し」「80 ms+繰り返し」「40 ms+周期をまたぐ合成」…と並んでいることから、SSB を長くして 1 回で届く距離を稼ぐか、周期を延ばして網の省電力を取るかの組み合わせを、7 GHz のカバレッジと突き合わせて選ぶ設計になっていると読めます。RAN1 と RAN4 の議長は連名で「SSB 設計の時間計画」の LS(R1-2606891)を出し、RF 要件側と足並みをそろえて詰める体制になりました。

1-4. NTN が「GNSS に頼らない」とはどういうことか

NTN(Non-Terrestrial Network、非地上系ネットワーク) は、衛星を基地局(または中継器)にする 3GPP の方式で、Rel-17 の NR-NTN から標準化されています。地上の基地局と決定的に違うのは、端末と基地局の距離が数百〜数万 km あり、しかも衛星が動いていることです。

OFDM を使う携帯の上り回線では、複数の端末の信号が基地局に同じタイミング・同じ周波数で届くように、各端末が自分の送信を前倒し(タイミングアドバンス)し、周波数をずらして(ドップラー補償)送ります。地上ではこのズレは小さく、基地局が最初のランダムアクセス(PRACH)で測って端末に教えます。ところが LEO 衛星では、ビーム内のどこにいるかで遅延もドップラーも大きく違います。TR 38.742(GNSS 耐性 NR-NTN のスタディ、2026 年 6 月承認)の計算表から一例を引くと——

  • LEO 600 km・S 帯・端末の位置が直径 50 km の範囲でしか分からない・仰角 30° のとき、往復遅延の差は 約 287 µs、上りの差動ドップラーは 約 1.5〜4.8 kHz(方向による。天頂では 8.4 kHz)
  • これに対し、NR の PRACH プリアンブルが吸収できる差は、最も一般的なフォーマット 0(非制限集合)で往復遅延 約 102 µs・ドップラー 約 0.85 kHz(2 GHz)。CP の最も長いフォーマット 1 でも遅延 684 µs まで、ドップラーは同じ 0.85 kHz

つまり、端末が自分の位置を知らないと、最初の 1 発すら衛星に正しく届きません。そこで Rel-17 の NR-NTN は「端末は自分の GNSS 位置と、網が放送する衛星の軌道情報(エフェメリス)から、遅延とドップラーを自分で事前補償してから PRACH を送る」という設計を採りました。TR 38.742 の 4.2 節はこれを「NTN アクセスは、端末が自身の地理位置と衛星の位置を組み合わせて事前補償量を計算することに基づいており、GNSS の可用性は NTN に不可欠」と書いています。

裏返すと、GNSS が使えない瞬間、端末は衛星に話しかけられなくなります。TR は原因として、GNSS ジャミング、スプーフィングや衛星配置・遮蔽・電離層による低信頼の測位、そして「NTN の電波は届くのに GNSS の電波は届かない」環境を挙げ、さらに「省電力のために GNSS 測位の間隔を延ばしたい」という動機も並べています。「GNSS に頼らない」とは、この外部システムへの依存を減らして、GNSS が一時的に使えなくても NTN のサービスを続けられるようにすることです。

Rel-20 の Work Item(NR_NTN_GNSS_resilient、報告者 Thales、共同報告者 CATT)で仕様化に入ったのは、TR 38.742 が推奨した次の方法です。

  • 基準位置+エフェメリス — 網が「このセル(またはこの SSB ビーム)の基準位置」を放送し、端末は自分の位置の代わりにそれを使って粗く事前補償する(地球固定セル向け)。地球移動セルでは、網が共通の TA/ドップラー情報を放送する
  • 2 本の PRACH 系列 — 同じフォーマットで根(root)の異なる 2 本の系列を送り、網側で残った時間・周波数誤差を推定する(RAN1#126 で Alt 1-4「2 つの根は共役でなくてもよい」を基準に採用)
  • Msg2 の拡張 — ランダムアクセス応答で、従来の TA コマンドの範囲を広げ、新たに周波数調整コマンド(FAC)を返す。接続中は FAC 用の MAC CE を新設し、タイマで失効させる(RAN2 合意)
  • 既存の PRACH フォーマットを使い、既存の NTN 端末との後方互換と共存を保証する(WID RP-261568 の注記)。スタディの段階では「新しい物理チャネルや信号は作らない」が設計制約だった(TR 38.742)。直前の GNSS 位置がまだ十分に有効なら、それを使うことも仕様化の対象

RAN#113 時点の完了度は 全体 25%(RAN1 30%、RAN2 25%、RAN4 25%)、中核部分の目標は 2027 年 3 月、性能部分は 2027 年 9 月です。

6GR 側でも、TR 38.760-1 草案の 5.10 節に「6GR NTN は GNSS あり/GNSS 劣化/GNSS なしの 3 つの運用モードを目標にする」と定義が置かれ、RAN1#126 では「GNSS なしの PRACH は、TR 38.742 の差動誤差を目標値とし、S 帯 LEO 300 km と Ka 帯 LEO 300 km のシナリオを加えて、共通の議題で設計する」ことが合意されました。

flowchart TD subgraph G["GNSS あり(Rel-17 NR-NTN)"] direction TB P["端末の GNSS 位置"] --> C["遅延とドップラーを
端末が事前補償"] E1["衛星エフェメリス
網が放送"] --> C C --> R1["PRACH 1 発で到達"] end subgraph N["GNSS なし(Rel-20 WI)"] direction TB L["セル/ビームの基準位置
または共通 TA・ドップラー
網が放送"] --> C2["粗く事前補償"] E2["衛星エフェメリス
網が放送"] --> C2 C2 --> R2["根の異なる
PRACH 2 本"] R2 --> M["Msg2 で TA と FAC
網が残差を返す"] end G ~~~ N

1-5. Ambient IoT とは — 電池なしで動くタグの端末種別

Ambient IoT(A-IoT) は、電池を持たず(または小さな蓄電素子だけを持ち)、周囲の電波や光などから得たエネルギーで動く超低消費電力のタグを、携帯網で読み書きする 3GPP の技術です。WID(RP-261117)の背景説明には、想定するエネルギーハーベスタの出力は 1 µW〜数百 µW、既存の携帯端末はピーク 10 mW 超なので使えない、対象は棚卸し(バーコードや RFID が担っている領域)とセンサ、と書かれています。NB-IoT や eMTC より「桁で下」の領域を狙い、それらを置き換えるものではない、とも明記されています。

用語を 3 つ押さえます。

  • R2D(Reader-to-Device)/D2R(Device-to-Reader) — 読み取り機からタグへ/タグから読み取り機へ。Uu の下り/上りに相当
  • トポロジ 1/トポロジ 2 — 基地局が直接読み取り機になる(T1)か、スマホなどの端末(intermediate UE)が読み取り機になる(T2)か
  • バックスキャッタ — タグ自身は電波を発生させず、読み取り機が出す搬送波を反射する際に負荷を切り替えて変調する方式。RFID と同じ物理

WID は端末を 3 種類に分けています。

端末種別 ピーク消費電力 D2R の送り方 最大送信電力 状況
Device 1 約 1 µW バックスキャッタ(増幅なし) Rel-19 で仕様化済み(屋内・基地局が読み取り機)
Device 2b 数百 µW 以下 端末内部で生成(能動) −10 dBm Rel-20 で追加(スマホが読み取り機のトポロジ 2)
Device C 1 mW 以下〜10 mW 以下 端末内部で生成(能動) 5 dBm Rel-20 で追加(屋外・基地局が読み取り機)

Rel-20 の第 2 段(Ambient_IoT_Solutions_Ph2)の目的は、Rel-19 で仕様化された「Device 1・屋内・基地局読み取り」を、屋外(既存のマクロ基地局と同じサイトに読み取り機を置く前提)・能動デバイス・スマホを読み取り機にするトポロジ 2・センサ・位置推定へ広げることです。例示帯域は n5/n8/n28(850/900/700 MHz 帯)。RAN#113 時点の完了度は中核 55%、目標は 2027 年 3 月(性能部分は 9 月)。RAN1#126 では、R2D の周期同期信号を「3 本の 2 値系列・マンチェスタ符号・長さ 255」に、D2R のプリアンブルを「m 系列・長さ {7, 31, 63, 127, 255} から選定」に、変調を「Device 2b は OOK、Device C は BPSK」に、といった具体が積み上がっています。位置推定は、専用の測位アーキテクチャは作らず、D2R の受信電力(RSRP 相当)を基地局が測って報告する方式です。


📜 2. 何が決まったか — RAN#113 に報告された決定事項

RAN1〜RAN4 の議長報告と状況報告から、6GR と Rel-20 の主な決定・合意を表にします。「一次」列は原文が入っている TDoc です(いずれも 3GPP FTP の TSGR_113/Docs から取得)。

項目 決定・合意の内容 一次
上り LDPC の BG3 能力申告つきで必須。ただし最大上り帯域幅 20 MHz 以下の端末は任意。追加の例外は RAN 総会が判断 RP-261577・RP-261879 添付
BG3 の構造 部分行列 E は下三角(Option E2)、単位行列にはしない。閾値 I は未定 RP-261879 添付
コンスタレーション整形 DL・UL とも合意なし。RAN#112 の「Q3 に合意がなければ打ち切り」の条件に従い、方式によって支持 9〜18 社・不支持 7〜15 社に割れたまま終了 RP-261577・RP-261879 添付
高次変調 DL 4096QAM と UL 1024QAM は、対応する場合も FWA(固定無線)限定で eMBB には使わない。RAN1 は UL 1024QAM を推奨DL 4096QAM は合意なし RP-261577
高次変調(RAN4) UL 1024QAM は一部条件で 256QAM を上回る。7 GHz の MPR は PC2 で DFT 4.5〜6 dB・CP-OFDM 6.8〜10 dB の入力。DL 4096QAM はシミュレーションの前提で見解が割れ、基準に合意なし RP-261583
6GR SSB 20 RB(合意)、PSS は 12 RB(合意)、時間方向 4〜7 シンボル(作業仮定)。既定周期は 20〜160 ms の 5 案を評価。RAN1/RAN4 連名の時間計画 LS RP-261577・RP-261879 添付
波形(上り PAPR 低減) FDSS の 3 案(拡張なし/スペクトル拡張/切り詰め)を RAN1#126bis で絞り込み。DFT サイズは 12 × 2^x 3^y 5^z を支持 RP-261879 添付
MRSS(5G-6G 周波数共用) 会合間の電子メール討議で暫定評価を提出(R1-2606927)。MRSS キャリア上で NR と 6GR の RB 境界を揃える RP-261577
6G NTN GNSS なし/劣化時の PRACH は TR 38.742 の誤差目標に S 帯・Ka 帯の LEO 300 km を加え、共通議題で設計 RP-261879 添付
6G 周波数集約(RAN2) FR1 と FR2 を別サイトから非理想バックホール(最大 10 ms)越しに集約しても「阻害要因なし」。PDCP/RLC のタイマは 5G の値域で足りる RP-261618
6G 上位層分離(RAN3) CU-DU 分離と CP-UP 分離を 5G の HLS を基準に継承。プロトコル配置を変えない最適化は排除しない。総会への要請なし RP-261644
GNSS 耐性 NR-NTN(Rel-20 WI) 基準位置+エフェメリス(地球固定セル)/共通 TA・ドップラー(地球移動セル)、根の異なる PRACH 2 本、Msg2 の TA 範囲拡張と FAC 新設。完了度 25%、中核 2027 年 3 月 RP-261632
Ambient IoT 第 2 段(Rel-20 WI) Device 2b は OOK・Device C は BPSK、R2D 同期信号は長さ 255・マンチェスタ符号、D2R プリアンブルは m 系列。完了度 55%、中核 2027 年 3 月 RP-262006・RP-261117
ISAC(通信一体センシング) RAN1 のスタディが完了し TR 38.765 に。RAN3 で新 WID が開始(完了度 25%) 3GPP ニュース・RP-261581

数字の出どころも添えておきます。RAN1#126 は 707 名・寄書 1,767 本、RAN2#135 は約 600 名・約 1,450 本、RAN4#120 は 400 名超・2,587 本(うち 910 本が 6G スタディ関連)、RAN5#112 は 300 名超・2,070 本です。RAN3 は第 2 四半期に 460 本を処理しました。

次の会合は、RAN1#126bis が 10 月 12〜16 日(済州)、RAN1#127 が 11 月 16〜20 日(カルガリー)、そして総会 RAN#114 が 12 月 7〜10 日(ボストン、ATIS 主催) です。


🗓️ 3. 図解 — Rel-20 スタディから Rel-21 へ

timeline title 6GR の標準化日程(2025〜2029 年) Rel-20 スタディ : 2025/6 RAN#108 プラハで 6GR SI 承認 : 2026/6 RAN#112 TR 38.914 承認・Rel-21 日程決定 2026 年 秋〜冬 : 9/14〜17 RAN#113 マドリード BG3・SSB を決定 : 10/12〜16 RAN1#126bis 済州 : 11/16〜20 RAN1#127 カルガリー : 12/7〜10 RAN#114 ボストン Rel-21 へ : 2027/3 RAN#115 Rel-21 パッケージ承認 : 2027/6 6GR スタディ完了目標 : 2028/12 Stage-3 凍結 : 2029/3 ASN.1 凍結
  • 2025 年 6 月 RAN#108(プラハ)で「Study on 6G Radio」を承認。先行して始まっていた RAN 総会レベルの「6G シナリオと要件」スタディ(RP-250810・TR 38.914)の要件を入力にする
  • 2026 年 6 月 RAN#112(シンガポール)で「6G シナリオと要件」の TR 38.914 を承認、Rel-21 の日程を決定、6GR の用語を 3 つの TSG で統一。RAN1 に BG3・整形・高次変調・SSB の Q3 宿題
  • 2026 年 9 月 RAN#113(マドリード)で宿題の回答。6GR スタディ 51%
  • 2026 年 12 月 RAN#114(ボストン)。10 月と 11 月の RAN1 会合の結果(PAPR 低減方式の絞り込み、DFT サイズの第 2 案、PRACH 2 本方式の細部など)が上がる
  • 2027 年 3 月 RAN#115 で Rel-21 のパッケージ承認・Stage-1 凍結。6GR の総会レベル TR 38.960 は「情報提供」の予定
  • 2027 年 6 月 6GR スタディの完了目標。TR 38.960 の承認予定
  • 2028 年 12 月 Rel-21 の Stage-3 凍結(最初の 6G 仕様)、2029 年 3 月 ASN.1/OpenAPI 凍結

🔌 4. 電子工作の読者への接続 — エネルギーハーベスティングと「位置がないと送れない端末」

4-1. Ambient IoT は RFID の物理で、予算は「ESP32 のディープスリープ以下」

Device 1 の「約 1 µW・バックスキャッタ・増幅なし」は、電子工作で触れる UHF 帯 RFID のパッシブタグと同じ物理です。読み取り機が搬送波(CW)を出し、タグはその電波から整流で電源を作りつつ、アンテナの負荷を切り替えて反射を変調する。ダイオード検波と負荷変調だけで通信が成り立つのは、送信機(発振器と PA)を持たないからです。

1 µW という数字の重さは、手元のマイコンと比べるとわかります。Espressif の ESP32-S3 データシート(v2.2)は、RTC だけを生かした Deep-sleep 時の消費電流を典型 7 µA としています。3.3 V なら約 23 µW。つまり Device 1 の「ピーク」は、ESP32-S3 が眠っているときの 1/20 です。Device 2b の「数百 µW 以下」でようやく、ESP32 のスリープと同じ桁になります。WID が「ハーベスタの出力は 1 µW〜数百 µW」と書き、「既存の携帯端末はピーク 10 mW 超」と対比しているのは、この桁の話です。

能動の Device C は「1〜10 mW 以下・最大 5 dBm」で、これは sub-GHz の小電力無線モジュールが手元で扱う電力の範囲に入ってきます。例示帯域の n5/n8/n28 は 700〜900 MHz 帯で、日本の UHF 帯 RFID や 920 MHz 帯の特定小電力無線と同じ「sub-GHz」の世界です(ただし A-IoT は免許帯域の FDD で、屋外のトポロジ 1 では R2D は下り・D2R は上りの周波数、スマホが読み取り機になるトポロジ 2 では R2D も D2R も上りの周波数を使う、と WID にあります。免許不要帯で自作機を飛ばす話とは制度が違います)。

電子工作の側からの見どころは、「電池なしで動くセンサ」を携帯網が正面から仕様化していることです。当サイトではJAXA の宇宙太陽光発電「OHISAMA」で「電波でエネルギーを送る」側を扱いましたが、A-IoT はその対極の「周囲の電波から µW を拾って通信する」側です。R2D の周期同期信号を「長さ 255 の 2 値系列をマンチェスタ符号で」と決めているのは、筆者の読みでは、1 ビットごとに必ず遷移が入る符号でタグ側のクロック回復に余裕を持たせるためです。RAN1 が「CFO 校正用の無変調単一トーンを 14 OFDM シンボル以上」と合意しているのも、WID が端末の前提として「初期のサンプリング周波数偏差が大きい」と書いている安価な発振器を見据えた設計だと読めます。自作の受信回路で「同期を取る前に、まず周波数を合わせる信号が欲しい」と思ったことがある人には、見慣れた発想のはずです。

4-2. NTN と自作の GNSS ロガー・LoRa 端末 — 「位置がないと送信できない」のは携帯網だけ

電子工作で衛星に関わる機会は、GNSS 受信機を UART でつないで位置を記録する側がほとんどです。当サイトでもみちびき 7 号機の打ち上げで QZSS の補完・補強を整理しました。NTN の話で面白いのは、その GNSS 受信機が「通信のために」要るという逆転です。

LoRa のような免許不要帯の LPWA では、端末は好きなタイミングで送り、ゲートウェイ側が受け止めます(同期を取らないから、遅延の差もドップラーも「受信側が広めに構えれば済む」問題になる)。携帯網の上りは、多数の端末を同じ OFDM の格子に同時に乗せるため、µs 単位の到着時刻と kHz 単位の周波数を端末側で揃えるのが前提です。地上ならこの差は小さい。LEO 衛星では、1-4 で見たように既存の PRACH の許容を桁で超えるため、端末が自分の位置から補償量を計算するしかありませんでした。NTN 対応の端末が GNSS を前提にしているのは、測位のためだけでなく、上り同期のためでもあります。

Rel-20 の GNSS 耐性 WI は、この前提を「網が基準位置を放送し、PRACH を 2 本送って、網が残差を返す」に置き換えます。RAN1#126 の寄書一覧には、電子工作でもなじみのある Nordic Semiconductor(R1-2605998)や Quectel(R1-2606545)、LEO IoT 事業者の Sateliot、Google・Apple が並んでいます。仕様が固まれば、GNSS 受信機を持たない(または GNSS を間欠的にしか動かさない)NTN 端末の設計が視野に入ります。TR 38.742 が「GNSS 耐性は GNSS 測定の回数を減らせるので端末の省電力にも効く」と書いているのは、間欠動作のセンサ端末を設計したことがある人には実感のある話だと思います。

もう一つ、TR 38.742 が GNSS 依存の弱点として真っ先に挙げているのがジャミングとスプーフィングです。位置が偽られると、端末は間違った事前補償で送信し、上りが届かなくなる。「位置を信じてよいか」という測位の話と、「位置なしでどう繋ぐか」という通信の話が、衛星では同じ問題の表と裏になっています。

⚠️ ここは筆者未確認です
  • 6GR SSB の時間方向を「4〜7 シンボルの可変」にした理由は、RAN1 の合意文と TR 草案に直接の説明がなく、本文の読みは筆者の推測です
  • BG3 が「復号器の辺の数を増やさずに高率を出す」ための骨格だという説明も筆者の解釈で、TR に書かれているのは「リフト後の検査行列の 1 の総数を BG1 相当以下に抑える」という設計条件までです
  • Ambient IoT の Rel-19 仕様(TS 38.191 など)の中身は、本記事では RP-262006 の記述で触れた範囲にとどめています
  • 3GPP ニュース記事の RAN1 報告のリンク先は「RP-2601577」と表記されていますが、FTP 上の TDoc 番号は RP-261577 で、本記事はこちらを使っています

📌 筆者の見方(3GPP は専門外ですが)

ここからは意見です。6G の記事を読んで「で、何が決まったの?」と思っていた身としては、今回の TDoc は初めて手応えがありました。決まったのは Gbps ではなく、「20 RB」「4〜7 シンボル」「44 情報列・リフティング 192・率 2/3」「上り 20 MHz 以下の端末は BG3 任意」。どれも、復号器のゲート数と電池の持ちに直に効く数字です。標準化とは、こういう単位で「増やす/増やさない」を決めていく作業なのだと、改めて思いました。

とくに面白かったのは、「増やさない」判断がきちんと出ていることです。コンスタレーション整形は「Q3 に合意がなければ打ち切り」という期限つきの条件で、実際に打ち切られた。DL 4096QAM は「合意なし」、UL 1024QAM も「固定無線に限る」。6GR の SID に「同じ機能に複数の選択肢を持たせない」と書いた以上、こうなるのが筋で、5G の端末能力ビットの山を見てきた人ほど、この判断の重さがわかると思います。一方で BG3 は「NR の範囲を超えるレートのときだけ」と適用条件を絞った上で入れる。足すものと足さないものの線引きが、TR の閾値(約 6 Gbps・約 12 Gbps)に数字で残っているのが、読んでいて気持ちよかった点です。

GNSS 耐性 NTN と Ambient IoT は、方向が同じに見えます。どちらも端末から部品を減らす話です。前者は GNSS 受信機(または GNSS の稼働時間)を減らし、後者は電池と送信機を減らす。自作のセンサ端末で電源設計をしていると、通信モジュールの次に効くのが GNSS の起動時間で、その次が電池の物理的な大きさです。3GPP がこの 2 つを Rel-20 で並行して詰めているのは、たまたまではなく、IoT 端末の BOM と消費電力の現実を見ているからだと受け止めています。

正直に書くと、筆者は 6GR の TR を今回初めて通して読みました。12 月の RAN#114 では、PAPR 低減の方式や PRACH 2 本方式の細部、そして「SSB を 4〜7 シンボルのどれにするか」がもう一段進むはずです。そのときは、今回の表に列を足す形で追います。

まとめ

  • 2026 年 9 月 14 日、3GPP が TSG RAN#113(マドリード)向けの作業部会議長報告の要約を公開。 RAN1#126(マーストリヒト)は 707 名・寄書 1,767 本。6GR の物理層で、6 月に課された宿題の回答がそろった
  • 上り LDPC の BG3 は、最大上り帯域幅 20 MHz 以下の端末を除き、能力申告つきで必須。 BG3 は情報列 44・最大リフティング 192・マザー率約 2/3 で、NR の範囲(約 6〜12 Gbps の閾値)を超えるデータレート向け。復号器の 1 の総数を BG1 相当以下に抑える設計条件つき
  • 6GR SSB は 20 RB 幅(5G と同じ)、時間方向 4〜7 シンボル(作業仮定)、PSS は 12 RB。 初期探索の既定周期は 20〜160 ms の 5 案を評価中。変調は 5G と同じ一様 QAM のままで、コンスタレーション整形は合意に至らず打ち切り、DL 4096QAM は合意なし、UL 1024QAM は FWA 限定で推奨
  • Rel-20 の GNSS 耐性 NR-NTN は、スタディ(TR 38.742)を終えて仕様化へ(進捗 25%)。 LEO 600 km・S 帯では既存 PRACH の許容を桁で超える遅延差・ドップラー差が生じるため、これまで端末の GNSS 位置が必須だった。網が放送する基準位置+根の異なる PRACH 2 本+Msg2 の周波数調整コマンドで置き換える
  • Ambient IoT 第 2 段は進捗 55%。 約 1 µW のバックスキャッタ端末(Device 1)に加え、数百 µW 以下の Device 2b(OOK・−10 dBm)と 1〜10 mW 以下の Device C(BPSK・5 dBm)を、屋外・スマホ読み取り・センサ・位置推定へ広げる
  • 次は 12 月 7〜10 日のボストン RAN#114。 6GR スタディ完了目標は 2027 年 6 月、Rel-21 はパッケージ承認 2027 年 3 月・Stage-3 凍結 2028 年 12 月・ASN.1 凍結 2029 年 3 月

よくある質問(FAQ)

Q. 6G の仕様はもう決まったのですか?

いいえ。6GR は 2027 年 6 月完了目標の Study Item(スタディ)の段階で、RAN#113 時点の完了度は 51% です。今回決まったのは、TR(技術報告書)に載せる方向性——BG3 の適用条件、SSB の幅と長さ、変調方式の範囲など——で、仕様書(TS)はまだありません。最初の 6G 仕様を含む Rel-21 は、2027 年 3 月にパッケージ承認、2028 年 12 月に Stage-3 凍結、2029 年 3 月に ASN.1 凍結の予定です。

Q. BG3 とは何で、なぜ 5G の BG1/BG2 では足りないのですか?

BG3 は 6GR の LDPC 符号で検討中の第 3 のベースグラフで、TR 38.760-1 草案に「NR の範囲を超えるデータレートのため」と書かれています。情報列 44(BG1 の 2 倍)、最大リフティングサイズ 192(BG1 の半分)、マザー符号化率約 2/3(BG1 は約 1/3)で、最大符号ブロック長は BG1 と同じ 8,448 ビットです。7 GHz 前後で 200〜400 MHz の帯域と多レイヤ MIMO を使うと、5G の設計上限を超えるビットレートが復号器に流れ込むため、高率向けに辺を配置した骨格を、復号器の処理量に上限を付けて追加する、というのが TR の設計条件です。上りでは、最大上り帯域幅 20 MHz 以下の端末を除いて能力申告つきで必須と決まりました。

Q. 6GR の SSB は 5G とどこが違うのですか?

周波数方向は 5G と同じ 20 RB です。違うのは時間方向で、5G は 4 OFDM シンボル固定、6GR は 4〜7 シンボルのうち 1 つの値で定義される作業仮定になっています。PSS は 12 RB を占め、系列は m 系列か ZC 系列、長さ 127 または 127 < L ≤ 144 を検討中です。初期セル探索の既定周期は、5G の 20 ms に対し、6GR は 20/40/80/160 ms の 5 案(周期を延ばす案は SSB の繰り返しと端末側の合成が前提)を評価しています。

Q. 「GNSS に頼らない NTN」は、衛星で位置を測らなくてよくなるという意味ですか?

逆です。NR-NTN では、端末が衛星に上り送信するための遅延・ドップラーの事前補償に、端末自身の GNSS 位置が必要でした。TR 38.742 は「GNSS の可用性は NTN に不可欠」と書いています。Rel-20 の Work Item は、GNSS が一時的に使えない(ジャミング、スプーフィング、遮蔽、省電力のための間欠動作など)ときでも、網が放送する基準位置と衛星エフェメリスで粗く補償し、根の異なる 2 本の PRACH を送って網側で残差を推定し、Msg2 で TA と周波数調整コマンドを返す方式を仕様化するものです。PRACH は既存のフォーマットを使い、既存の NTN 端末との後方互換と共存を保証することが WID に注記されています。

Q. Ambient IoT のタグは本当に電池なしで動くのですか?

3GPP の WID は、エネルギーハーベスタの出力を 1 µW〜数百 µW と想定し、Rel-19 で仕様化した Device 1 を「ピーク約 1 µW・蓄電素子あり・バックスキャッタ(増幅なし)」と定義しています。バックスキャッタは RFID と同じ原理で、タグは送信機を持たず、読み取り機の搬送波を反射する際に負荷を切り替えて変調します。Rel-20 では、内部で信号を生成する能動型の Device 2b(数百 µW 以下・−10 dBm)と Device C(1〜10 mW 以下・5 dBm)が加わりますが、これらも「蓄電素子あり」で、NB-IoT などより桁で低い消費電力が要件です。

Q. 5G から 6G への移行で、既存の 5G 端末や周波数はどうなりますか?

6GR は 5G NR と後方互換性のない新しい無線技術ですが、SID には「5G-6G のマルチ RAT 周波数共用(MRSS)」が移行手段として明記され、RAN1#126 では MRSS キャリア上で NR と 6GR のリソースブロック境界を揃えることが合意されました。RAN1 は会合間の電子メール討議で MRSS の性能の暫定評価も提出しています。RAN3 は 6G の上位層分離(CU-DU 分離・CP-UP 分離)を 5G の構成を基準に継承すると決め、RAN2 は FR1 と FR2 を別サイトから 10 ms の非理想バックホール越しに集約することに阻害要因はないと報告しました。

関連記事

参考

本記事の一次資料は front matter の references に列挙しています(3GPP のニュース記事「Working Group Reports to RAN Plenary #113」、TSG RAN#113/#112/#108 の TDoc、RAN1#126 の TR 38.760-1 v0.5.0 草案、TR 38.742 v20.0.0、TS 38.211/TS 38.212 v19.4.0、Rel-21 日程の記事、RAN#114 招待状、ESP32-S3 データシート)。いずれも 2026年9月19〜20日に取得しました。X(旧 Twitter)の投稿は出典に使っていません。