はじめに
以前、当サイトではメモリ高騰が電子工作を直撃|ArduinoとRaspberry Piが相次ぎ値上げという記事で、メモリの値上がりが電子工作の部品にまで及んだという「現象」をお伝えしました。この続報(part2)では、その後の動きをふまえて、一歩踏み込みます。テーマは、なぜ値上げが続くのか・いつまで続きそうか・個人はどう動くかという「構造と見通し」です。
結論を先に言うと、根っこにあるのは AI 向けの HBM(高帯域メモリ)需要が、民生用の DRAM/NAND の生産枠を食っているという構造です。メーカーは利幅の大きい AI・データセンター向けを優先し、そのぶん個人向け(リテール)が後回しになっています。part1 が「値上がりした」という結果を伝えたとすれば、part2 は「その値上がりを生んでいる仕組み」の話です。
本記事の数字は、出典と時点を添えた帰属で扱います(調査会社・企業発表など)。とくに企業が公表した性能値(例:zHBM の「HBM5比8倍」)は企業の主張・概念段階として明記し、確定した製品性能とはしません。到達確認できなかった値は書きません。価格・見通しは変動します。
この記事でわかること:
- 値上げは止まったのか(最新の数字・帰属)
- なぜ続くのか(AI の HBM 需要が民生を圧迫する構造)
- メーカー各社の最新の動きと、個人・電子工作勢の向き合い方
📈 1. 値上げは止まっていない
まず現状です。値上がりは一服していません。調査会社 TrendForce によれば、2026年第1四半期の(DRAM)契約価格は前年同期比で約3倍(およそ200%増)に達し、第2四半期もモバイル向け DRAM の契約価格上昇がスマホメーカーへのコスト圧力を強め続けている、とされています(TrendForce・2026年2月/5月)。
分かりやすい指標もあります。TrendForce は、スマホの部品原価(BOM)に占めるメモリの割合が、従来の10〜15%から30〜40%へ跳ね上がったとしています。スマホ1台のコストの3〜4割がメモリ、という水準です。これは、メモリが「その他大勢の部品の一つ」から「価格を左右する主役」に変わったことを意味します。
いずれの数字も TrendForce の集計・執筆時点のものです。四半期や品目で幅があり、今後も変動します。ここでは「一つの確定値」ではなく「桁感」として受け取ってください。
🔧 2. なぜ続くのか——AI(HBM)が民生を圧迫する構造
値上げが続く一番の理由は、メモリの生産枠の奪い合いです。AI の学習・推論には、超高速の HBM が大量に要ります。メーカーは限られた製造ラインを、利幅の大きい HBM・データセンター向けに優先して割り当てます。そのぶん、私たちが使う民生用の DRAM/NAND の供給が細り、価格が上がります。
HBM(High Bandwidth Memory)は、DRAM を何層も積み重ねて超高帯域にしたメモリで、AI アクセラレータの相棒として需要が急増しています。 zHBM は、Samsung が2026年8月に公表した次世代の概念で、AI チップの真上にメモリを積む構造です(後述。あくまで概念段階です)。 QLC は、1つのセルに4ビットを記録して容量を稼ぐ NAND フラッシュの方式です。大容量 SSD の低コスト化に使われます。
この圧迫の流れを図にすると、次のようになります。
part1 で伝えた「Arduino や Raspberry Pi が値上がりした」という現象は、この流れの末端で起きています。川上(AI 需要)が太くなるほど、川下(個人向け)にしわ寄せが来る、という構造です。
🏭 3. メーカー各社の最新の動き(すべて帰属)
この構造は、各社の動きにもはっきり表れています。以下は出典を添えた事実です。
- Micron ——個人向けから撤退:Micron は2025年12月、個人向け(リテール)の Crucial ブランドから撤退すると発表しました。2026年2月までに店頭向けの RAM/SSD の出荷を終え、生産を AI・データセンター向けへ振り向ける、とされています(Micron 公式発表/複数媒体)。Micron は世界の DRAM 生産の約2割を占めるとされ、個人向けの供給源が一つ減ったことになります。以降、個人向けの主な供給元は Samsung と SK Hynix に絞られていきます。
- SK Hynix ——不足は長期化との見通し:SK Hynix の CEO(郭魯正氏)は、2027年が最悪の年になり、需給の逼迫は2030年以降も続くという見通しを示したと、複数の媒体が報じています。SK グループの会長(崔泰源氏)も、価格が異常に高い水準にあると述べたと伝えられています。いずれも企業・経営者の見通しとしての帰属で、確定した将来ではありません。
- Samsung ——AI 向け次世代メモリを提示:Samsung は2026年8月の FMS 2026 で、次世代メモリ zHBM の概念を公表しました。AI チップの真上にメモリを積む構造で、HBM5比で約8倍の性能を主張しています(TrendForce ほか)。★ただしこれは概念(コンセプト)段階で、製品・顧客・量産スケジュールは確定していません。数字はあくまで Samsung の主張として受け取る必要があります。
各社の向きは、そろって AI・データセンター優先です。民生向けは、その優先の「あと」に回りやすい——これが、値上げと入手難が続く理由につながっています。
🛒 4. 個人・電子工作勢はどう向き合うか
最後に、個人開発・電子工作の目線で、現実的な向き合い方を整理します。★煽るためではなく、落ち着いて判断するための整理です。
- 必要なものは、計画的に早めに:使うあてのあるボードやモジュールは、プロジェクトの計画に合わせて早めに確保しておくと、価格や在庫のブレに振り回されにくくなります。ただし、「値上がりするから」と使うあてのない大量買い(投機的な買いだめ)は勧めません。死蔵在庫や資金拘束のリスクがあり、価格が今後どう動くかは誰にも断定できません。
- 代替を持っておく:メモリ搭載量の少ない構成、型落ちや中古、必要十分な容量への見直しなど、選択肢を複数持っておくと、特定品の高騰・欠品を回避しやすくなります。
- 見積もりに変動を織り込む:作品や製品の原価を見積もるとき、メモリ価格が動く前提でマージンを取っておくと安全です。
- 小口ほど後回しになりやすい構造を理解する:供給が絞られる局面では、大口の調達が優先されがちです。個人・小口は「高い」だけでなく「入りにくい」状況にも備えておくと安心です。
これは投資や投機の助言ではありません。あくまで、部品を使う立場としての在庫・調達の考え方です。
🧑💻 5. 筆者の見方
part1 を書いたときも感じましたが、メモリの高騰は、数字よりも先に部品の値札と在庫として届きます。メモリを積んだボードやモジュールを買おうとして、以前の感覚より高い、あるいは在庫が薄い、という場面が実際に増えました。ここは正直に、その実感の範囲で書きます。
正直に言うと、筆者も「買い時を逃したかな」「まとめて確保しておくべきか」と迷います。ただし、迷ったうえでの結論は、使うあてのないまとめ買いはしない、です。価格が今後どう動くかは読み切れませんし、死蔵させてしまえば結局むだになります。必要なものを計画的に押さえ、代替を用意しておく——地味ですが、これが個人にできる現実的な備えになると思っています。投機をあおるような話にはしたくありません。
もう一つ感じるのは、AI の大きな需要のうねりが、こうして手元の電子工作の部品にまで及んでいる、というつながりの生々しさです。遠い世界の話に見えて、実は同じ供給網の上にいる——その実感を、これからも等身大で記録していきたいと思います。
まとめ
- 「メモリ高騰が電子工作を直撃」の続報です。値上げは一服しておらず、TrendForce によれば 2026年第1四半期の DRAM 契約価格は前年比で約3倍、スマホの BOM に占めるメモリは 10〜15%から30〜40%へと跳ね上がっています(帰属・執筆時点)。
- 根っこは、AI 向け HBM 需要が民生 DRAM/NAND の生産枠を食う構造です。メーカーは AI・データセンターを優先し、個人向けが後回しになっています。
- 各社の動き(帰属):Micron は個人向け Crucial から撤退(2025年12月発表・AI/DCへ転換)、SK Hynix の CEO は不足が2030年以降も続くと見通し、Samsung は HBM5比8倍を主張する zHBM 概念を公表(製品化は未定)。
- 個人・電子工作勢は、計画的に早めの確保・代替の用意・見積もりへの変動織り込みが現実的です。投機的な買いだめは勧めません。
現象を伝えたpart1(Arduino/Raspberry Pi の値上げ)、先端プロセスのコストを扱うファウンドリ戦争2026、AI 需要側のNVIDIA Vera Rubinもあわせてどうぞ。
よくある質問(FAQ)
Q. なぜメモリの値上げが続いているのですか?
A. AI 向けの HBM(高帯域メモリ)需要が急増し、メーカーが限られた生産枠を AI・データセンター向けに優先しているためです。そのぶん民生用の DRAM/NAND の供給が細り、価格が上がります。TrendForce は2026年第1四半期の DRAM 契約価格が前年比で約3倍になったとしています(帰属)。
Q. いつまで続きそうですか?
A. 断定はできませんが、SK Hynix の CEO は「2027年が最悪の年で、逼迫は2030年以降も続く」という見通しを示したと複数の媒体が報じています。あくまで企業・経営者の見通しとしての帰属で、確定した将来ではありません。
Q. Micron の撤退は個人に影響しますか?
A. あります。Micron は2025年12月、個人向けの Crucial ブランドから撤退すると発表しました(AI・データセンターへの生産転換のため)。世界の DRAM の約2割を占めるとされ、個人向けの供給源が一つ減る形です。以降、個人向けの主な供給元は Samsung と SK Hynix に絞られていきます。
Q. Samsung の zHBM「8倍」は本当ですか?
A. これは Samsung が2026年8月に公表した概念(コンセプト)で、「HBM5比で約8倍の性能」は同社の主張です。製品・顧客・量産スケジュールは確定しておらず、確定した製品性能ではありません。数字は企業発として受け取るのが安全です。
Q. 個人はどう動けばよいですか?
A. 使うあてのあるものを計画的に早めに確保し、代替(容量の見直し・型落ち・中古など)を用意しておくのが現実的です。ただし、値上がりを見込んだ投機的な買いだめは勧めません。価格の先行きは断定できず、死蔵のリスクもあります。これは投資助言ではありません。
参考
- メモリ高騰が電子工作を直撃|ArduinoとRaspberry Piが相次ぎ値上げ(本サイト・part1)
- Memory Price Surge Intensifies Retail Pricing Pressure, Smartphone Production at Risk(TrendForce・2026-02-11)
- Mobile DRAM Contract Prices Continue Rising in 2Q26, Pressuring Smartphone Production(TrendForce・2026-05-14)
- Samsung Showcases zHBM at FMS 2026 — Next-Gen 3D Memory with 8X HBM5 Performance(TrendForce・2026-08-05)
- Micron Announces Exit from Crucial Consumer Business(Micron 公式・投資家向けリリース)