はじめに

2026年10月13日、早稲田大学発のスタートアップ Power Diamond Systems が、ダイヤモンドでできた MOSFET を使い、6.78MHz で E 級アンプを動かしたと発表しました。ダイヤモンドの素子で電力を変換した例はこれまで数百 kHz の DC/DC コンバータまでで、同社はこれを「10 倍以上の周波数」「世界で初めて」(2026年10月時点の公知文献を対象にした同社調べ)と説明しています。6.78MHz は、スマホや小型機器のワイヤレス給電で使われる周波数です。

ダイヤモンドは、絶縁破壊電界と熱伝導率がシリコンよりけた違いに大きく、「究極のパワー半導体」と呼ばれてきました。ただ、素材としての良さを素子にするのが難しく、実際の電力変換回路では、ずっと低い周波数での報告にとどまっていました。今回の発表で、ダイヤモンドの素子が MHz の領域に入りました。

この記事のゴールは、ダイヤモンドの素子が「6.78MHz の E 級アンプで動いた」ことの意味を、手元の Si/GaN で同じ方式のアンプを組み、オシロで波形を見て体感できるようになることです。そのために、ダイヤモンド半導体とは何か、E 級アンプと ZVS(ゼロ電圧スイッチング)はなぜ MHz の電力変換に効くのか、6.78MHz という数字はどこから来たのかを順に押さえ、最後に定数の求め方と測定の手順を載せます。

📌 この記事の3行まとめ
  • Power Diamond Systems が、ダイヤモンド MOSFET で 6.78MHz の E 級アンプ動作を実証したと発表。従来報告(数百 kHz の DC/DC)の「10 倍以上」で、「世界初」は同社調べ。出力や効率の数値は発表文にない
  • E 級アンプは、電圧が 0 V に戻った瞬間にだけスイッチを入れる(ZVS)ことで、周波数に比例して増えるスイッチング損失をほぼ消す方式。6.78MHz は ISM 帯にあり、AirFuel 方式のワイヤレス給電の周波数
  • 同じ回路は手元でも組める。Si の IRF510 なら 1MHz、6.78MHz では GaN が現実的。オシロで「ゲートが入る瞬間にドレイン電圧が 0 V・傾き 0」を確かめる

💎 1. ダイヤモンド半導体とは

物性で見ると「全部入り」

パワー半導体の材料は、主に次の 3 つの物性で比べます。

  • バンドギャップ: 電子を動けるようにするのに要るエネルギー。大きいほど高温や高電圧でも勝手に電流が流れにくい
  • 絶縁破壊電界: どこまで強い電界に耐えられるか。大きいほど、同じ耐圧を薄い層で実現でき、オン抵抗を下げられる
  • 熱伝導率: 素子の中で出た熱をどれだけ速く逃がせるか。大きいほど、同じ大きさの素子で大きな電力を扱える
材料 バンドギャップ(eV) 絶縁破壊電界(MV/cm) 熱伝導率(W/cm・K)
Si(シリコン) 1.1 0.3 1.5
SiC(炭化ケイ素) 3.3 2.5 4.9
GaN(窒化ガリウム) 3.4 3.3 2.0
Ga₂O₃(酸化ガリウム) 4.9 8 0.1〜0.2
ダイヤモンド 5.5 10 20

出典は旭化成 ARC WATCHING(2023年8・9月)の表 2「各種半導体材料の物性の比較」です。値は代表値で、結晶の型や文献によって少しずつ違います(Ga₂O₃ は結晶型で値が変わります)。

表を縦に見ると、ダイヤモンドはバンドギャップ・絶縁破壊電界・熱伝導率のすべてで一番上にいます。特に熱伝導率は Si の 10 倍以上で、酸化ガリウムとは 100 倍以上の開きがあります。酸化ガリウムは耐圧の物性ではダイヤモンドに迫りますが、熱を逃がすのは苦手です。今回の発表文も、ダイヤモンドの強みとして「極めて高い熱伝導率」と、それを生かした放熱性・高速動作を挙げています。

なぜ難しかったのか

物性がこれだけ良いのに実用化が遅れてきたのは、素材を素子にする工程に壁が多かったからです。ARC WATCHING は、次の 3 つを挙げています。

  • 半導体デバイスに使える基板の大口径化・高品質化が難しい
  • 結晶が非常に硬いため研磨が難しい
  • 不純物を微量に加えて半導体にするドーピング技術が成熟していない

素子の構造にも課題がありました。早稲田大学の川原田洋教授のグループは、ダイヤモンドの表面を水素原子で覆った「水素終端」の FET を開発してきました。ところが、この表面は高温で酸化されると電子的な欠陥になり、MOSFET の性能が大きく落ちます。そこで同グループは、表面をシリコンで終端して安定させる技術を開発し、2023年12月の国際学会 IEDM で、ノーマリオフ(信号がないときは電流が流れない)の p チャネル MOSFET を発表しました。表面が Si や SiC と似た構造になるため、Si や SiC と同じような製造工程を使えるようになった、と大学は説明しています。

Power Diamond Systems は、この川原田教授のダイヤモンド半導体技術を核に 2022年8月に設立されたスタートアップです(早稲田大学アントレプレナーシップセンター)。2025年12月の SEMICON Japan では、ダイヤモンドの p 型 MOSFET がスイッチング評価(ダブルパルス試験)で動く様子を展示し、2030年代の実用化を目指すとしていました(EE Times Japan)。

⚡ 2. E 級アンプと ZVS とは

MHz で電力を切り替えると何が困るか

スイッチング電源やインバータは、トランジスタを高速にオン・オフして電力を変換します。周波数を上げるほど、コイルやコンデンサを小さくできます。共振回路の周波数は

f = \frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}

なので、周波数を 10 倍にすれば、必要な LC の積は 100 分の 1 で済みます。発表文の「高周波で電力を変換することで回路部品を小型化し、高電力密度化を実現」は、この関係のことです。

ただし、周波数を上げるとスイッチング損失が増えます。トランジスタのドレインとソースの間には出力容量 C_{oss} があり、電圧 V がかかったままスイッチを入れると、そこにたまっていたエネルギー \frac{1}{2}CV^2 がトランジスタの中で熱になります。これが 1 秒に f 回起きるので、

P_{sw} = \frac{1}{2} C V^2 f

です。計算例として C = 100\,\mathrm{pF} 、 V = 400\,\mathrm{V} とすると、100kHz では 0.8W ですが、6.78MHz では約 54W になります。損失は周波数に比例して増えるので、MHz で大きな電力を扱うには、スイッチを入れる瞬間の電圧そのものを 0 V にするしかありません。

E 級アンプの回路

それを回路の形で実現したのが E 級(Class-E)アンプです。スイッチ 1 個・コイル 2 個・コンデンサ 2 個でできていて、設計式は N. O. Sokal がまとめたものが広く使われています。

            VDD
             |
             L1                         <- RFチョーク
             |
             +--------+---- L2 ---- C2 ----+
             |        |                    |
             D        |                    |
 gate ---- G Q1       C1                   R    <- 負荷(ダミーロード)
             S        |                    |
             |        |                    |
            GND      GND                  GND
部品 役割
L1(RF チョーク) 電源からほぼ一定の直流電流を流し込む
Q1(スイッチ) デューティ 50% でオン・オフする。ゲートは方形波で駆動
C1(シャント容量) スイッチがオフの間に充電され、ドレイン電圧の形を作る。Q1 の出力容量 Coss もここに含まれる
L2・C2(直列共振) 動作周波数の近くで共振し、負荷に正弦波の電流を流す。少しだけ誘導性に寄せて設計する
R(負荷) 電力を受け取る側。ワイヤレス給電なら送電コイルとその先の回路

ZVS とは

スイッチがオフになると、L1 から流れ込む電流と負荷側へ流れ出す電流の差が C1 を充電し、ドレイン電圧は山なりに持ち上がります。部品の定数を正しく選ぶと、この山は次にスイッチが入る直前に、ちょうど 0 V まで戻り、しかも傾きが 0 になります。この瞬間にスイッチを入れれば、C1 に残っているエネルギーは 0 なので、上の式の V が 0 になり、スイッチング損失が消えます。これが ZVS(Zero Voltage Switching・ゼロ電圧スイッチング)です。

理想的な E 級アンプの波形(デューティ 50%・計算値・2 周期) スイッチ ON スイッチ ON ゲート ドレイン 電圧 Vds 3.56 VDD VDD 0 V スイッチ 電流 Id 青:0 V・傾き 0 でオン(ZVS)→ 赤破線:電圧が残ったままオン → 青=理想の Vds(ZVS)/赤破線=負荷が設計値からずれた例(概念)/緑=Id。電圧と電流が同時に大きい瞬間がない

上の図は、理想的な E 級アンプの式から計算した波形です。見どころは 3 つあります。

  • ゲートが入る瞬間(オレンジの帯の左端)に、青のドレイン電圧が 0 V で、傾きも 0。これが ZVS で、加えて傾きも 0 なので、多少タイミングがずれても電圧はすぐには立ち上がりません
  • 電流(緑)はスイッチがオンの間だけ流れる。電圧が高い間は電流が流れていないので、電圧と電流の積(=トランジスタの損失)がほぼ 0 になる
  • その代わり、ドレイン電圧のピークは電源電圧の約 3.56 倍、スイッチ電流のピークは直流電流の約 2.86 倍になる。素子の耐圧と電流には余裕が要る

赤い破線は、負荷が設計値からずれたときの例(概念)です。ドレイン電圧が 0 V に戻りきらないうちにスイッチが入り、縦に落ちます。この落差の分だけ \frac{1}{2}CV^2 の損失が出ます。EPC の評価ボードの資料は、負荷抵抗が設計値より大きいとこの「戻りきらない」形になり、小さいと電圧のピークが理論値より大きく上がってボディダイオードが導通する、と説明しています。E 級アンプは負荷の変化に敏感で、ここが設計の腕の見せどころです。

📡 3. 6.78MHz がワイヤレス給電に使われる理由

ISM 帯の周波数

6.78MHz は、ISM(Industrial, Scientific and Medical)帯に割り当てられた周波数の一つです。ISM 帯は、通信ではなく、加熱や医療など高周波のエネルギーそのものを使う機器のための周波数です。米国の規則(47 CFR § 18.301)には、ISM 機器の周波数として 6.78MHz ± 15.0kHz、13.56MHz ± 7.0kHz、27.12MHz ± 163.0kHz などが並んでいます。6.78MHz ± 15kHz は 6.765〜6.795MHz で、13.56MHz(NFC や IC カードで身近な周波数)のちょうど半分です。

AirFuel 方式の周波数

ワイヤレス給電には、コイル同士を密着させる Qi 方式のほかに、送電側と受電側のコイルを同じ周波数で共振させ、離れていても電力を送る磁界共振方式があります。後者の代表が AirFuel Resonant で、国際規格 IEC 63028 になっています。BSI の規格紹介によると、送電ユニット(PTU)1 台から受電ユニット(PRU)1 台以上へ電力を送り、伝送周波数は 6.78MHz、配置と電力によっては 1 台の送電ユニットから最大 8 台に給電できます。

周波数が高いほど、同じ共振を小さなコイルとコンデンサで作れます(2 章の式)。E 級アンプは、この周波数で正弦波の電力を効率よく作る送電回路の方式で、GaN 向けゲートドライバのデータシートにも用途として「Class-E Wireless Chargers」が挙がっています。今回の発表が 6.78MHz を選んだのも、「ワイヤレス給電システムでの利用が想定される」周波数だからだと説明されています。

日本の制度

日本では、ワイヤレス給電のうち近接結合型は、電波法の高周波利用設備として制度化されています。総務省の 2025年5月の資料には、6.7MHz 帯の磁界結合型として「一般用(情報端末向け・100W 以下)」と「搬送ロボット用(AGV など・4kW 以下)」が並んでいます。制度の器はすでにあり、大電力化が進めば、ここを使う機器が増えていくはずです。

🔬 4. 発表の中身

発表文(PR TIMES 配信)に書かれていることを、文言の範囲で整理します。

項目 発表文の内容
何をしたか ダイヤモンドデバイス向けの E 級アンプ回路の評価ボードを開発し、ダイヤモンド MOSFET で 6.78MHz の E 級アンプ動作に成功
何と比べたか ダイヤモンドデバイスでの電力変換はこれまで数百 kHz で動く DC/DC コンバータの報告があり、今回はその 10 倍以上の周波数
「世界初」の範囲 同社調べ。2026年10月時点の、ダイヤモンド半導体を使った電力変換回路の公知文献が対象
狙う用途 次世代のワイヤレス給電、さらに高電圧・大電力・高電力密度が求められる次世代 AI データセンター向けの電力変換
次の一手 ダイヤモンド MOSFET の高耐圧化と大電流化。外部パートナーとの用途開発
支援 NEDO の委託業務(JPNP14004)と、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業
展示 CEATEC 2026(2026年10月13〜16日・幕張メッセ・ブース 6H140)に、評価ボードと、それを組み込んだワイヤレス給電のデモボードを出展

発表文の背景説明によると、ドローンの大型化やバッテリー容量の増加、産業用ロボットやフィジカル AI の広がりで、ワイヤレス給電には大電力化と小型化の両方が求められています。周波数を上げれば部品は小さくなりますが、大電力・高周波では損失と発熱が壁になります。そこで、高周波で動きながら熱を効率よく逃がせる素子としてダイヤモンドに期待がかかる、という筋立てです。

数字の読み方には注意が要ります。発表文にあるのは動作周波数(6.78MHz)と、従来報告との周波数の比(10 倍以上)の 2 つで、出力電力・効率・素子の耐圧や電流は書かれていません。ここから言えるのは「ダイヤモンドの素子が、ワイヤレス給電の周波数で E 級動作した」ところまでです。発表文の英語版も、この成果を「important step toward the practical implementation」と位置づけています。

支援元の番号のうち「14004」は、NEDO の公募ページでプロジェクトコード P14004 の「NEDO先導研究プログラム」と一致します。このプログラムは、2040年以降の実用化を見据えた技術シーズを発掘・育成する先導研究です。

🗾 5. 日本発の次世代パワー半導体

同じ 10月13日には、京都の FLOSFIA も成果を発表しました。同社は酸化ガリウムのうち α 型(α-Ga₂O₃)のパワー半導体の実用化を進めていて、独自の「ミストドライ法」による低温・常圧の成膜で、6 インチのサファイア基板上にエピタキシャル膜を成膜し、膜厚の面内ばらつき約 ±3% を達成しました。初期実用化レベルの目標としていた ±4% 以下を満たし、3・4・6 インチの結果から、8 インチでも ±4% 以下に抑えられる見込みとしています。6 インチは SiC パワー半導体の量産で主流の口径なので、パートナーが既存の 6 インチの量産ラインを使えるのが利点です。2026年中に 8 インチでの成膜実証を進めるとしています。

1 章の表に戻ると、酸化ガリウムは耐圧の物性でダイヤモンドに迫り、量産の入口である大口径化で先を走っています。ダイヤモンドは熱を逃がす力が飛び抜けていて、高周波・大電力で素子が動くことを示し始めた段階です。どちらも日本の大学や企業が中心にいる材料で、得意分野が違う 2 つのパワー半導体が、同じ日にそれぞれ前に進みました。宇宙で半導体基板を作るという、ワイドバンドギャップ材料の別の攻め方は、宇宙で半導体材料を作る|Space ForgeがテキサスA&Mと研究契約で取り上げています。

🛠️ 6. 手を動かす: E 級アンプを自作して ZVS 波形を見る

ここからは、手元の部品で E 級アンプを組み、ZVS の波形をオシロで見るための設計案です。数値はデータシートの規格値と、上の理想式からの計算値で、実際の波形は部品のばらつきと配線で変わります。測ってから合わせる前提で読んでください。

方針: 1MHz の Si から始め、6.78MHz は GaN で

いきなり 6.78MHz を狙うより、1MHz で Si の MOSFET から始めるのが近道です。6.78MHz では、Si の MOSFET の出力容量とゲート電荷が壁になります。その壁は、次の計算で数字として見えます。

flowchart TD A["Si5351
方形波"] --> B["ゲート
ドライバ"] B --> C["MOSFET
+ C1"] C --> D["L2・C2
直列共振"] D --> E["50Ω
ダミーロード"]
役割 1MHz(Si) 6.78MHz(GaN)
スイッチ IRF510(100V・TO-220) EPC2036(100V・0.9mm 角のバンプ付きダイ)
ゲートドライバ UCC27517(4.5〜18V 電源・SOT-23-5・TTL/CMOS 互換入力) LMG1020(5V 電源・60MHz まで・0.8×1.2mm の WCSP)
発振源 Si5351 のクロック生成モジュール(I2C で設定・CMOS 出力)をマイコンで設定 同じ
負荷 50Ω の無誘導抵抗(ダミーロード) 同じ
電源 電流制限つき安定化電源(5V から始めて 12V まで) 同じ

Si5351 は I2C で周波数を設定できるクロック生成 IC で、200MHz までの任意の周波数を出せます(出力電圧は 1.8・2.5・3.3V から選べます)。周波数を少しずつ動かせるので、E 級アンプの調整に向いています。LMG1020 は、データシートの用途欄に「Class-E Wireless Chargers」が挙がっている GaN 向けのドライバです。

スイッチの比較: 6.78MHz で何が壁になるか

項目(データシート値) IRF510(Si) EPC2036(GaN)
ドレイン・ソース間電圧 100V 100V
出力容量 Coss(標準) 81pF(VDS 25V・1MHz) 50pF(VDS 50V)
ゲート電荷 Qg 8.3nC(最大・VGS 10V) 0.70nC 標準/0.91nC 最大(VGS 5V)
オン抵抗 0.54Ω(最大・VGS 10V) 73mΩ(最大・VGS 5V)
ゲート電圧の定格 ±20V +6V/−4V

Coss は測定条件の電圧が違うので単純には比べられませんが、目安にはなります。この値を、次の設計式で求める C1 と並べると、壁が見えてきます。

定数の求め方

理想的な E 級アンプ(デューティ 50%・負荷側の Q が十分高い近似)の設計式は次のとおりです。Sokal の式を、負荷の Q を無限大とみなして簡単にした形で、EPC の評価ボードの資料も同じ近似を使っています。 \omega = 2\pi f 、 V_{DD} は電源電圧、 R は負荷抵抗です。

出力電力:

P = 0.5768\,\frac{V_{DD}^2}{R}

シャント容量(Q1 の Coss を含む):

C_1 = \frac{0.1836}{\omega R}

直列共振の L2・C2( Q_L は負荷側の Q。ここでは 5 とする):

L_2 = \frac{Q_L R}{\omega}, \qquad C_2 = \frac{1}{\omega R\,(Q_L - 1.1525)}

L2 と C2 の組は、動作周波数でちょうど 1.1525R だけ誘導性のリアクタンスが残るように選んでいます。これが図のドレイン電圧の山を「傾き 0 で 0 V に戻す」ための位相のずらし分です。素子にかかるピークは

V_{pk} \approx 3.56\,V_{DD}, \qquad I_{pk} \approx 2.86\,I_{DC}

です。RF チョーク L1 は、そのリアクタンスが負荷抵抗より十分大きければよく、ここでは \omega L_1 \geq 10R を目安にしました。

計算例(VDD = 12V・R = 50Ω・QL = 5)

項目 1MHz 6.78MHz
出力電力 P(理想) 1.66W 1.66W
直流電流 IDC(理想) 0.14A 0.14A
ドレイン電圧のピーク 42.7V 42.7V
スイッチ電流のピーク 0.40A 0.40A
C1(Coss を含む) 584pF 86pF
L2 39.8µH 5.87µH
C2 827pF 122pF
L1(目安の下限) 80µH 12µH

ここで C1 と Coss を並べます。

  • 1MHz・IRF510: C1 = 584pF に対し Coss は 81pF。外付けの C1 は差の約 500pF が出発点で、調整の余地が十分ある
  • 6.78MHz・IRF510: C1 = 86pF に対し Coss だけで 81pF。外付けで調整できる余地がほとんどない。EPC の資料も、Coss(電圧で平均した値)が計算した C1 より大きいなら、その負荷抵抗では設計が成り立たないので負荷抵抗を選び直す、としている
  • 6.78MHz・EPC2036: Coss 50pF に対し外付けは約 36pF が出発点。トリマコンデンサで調整できる

ゲートの駆動にも差が出ます。ドライバが 1 秒あたりにゲートを充放電する電力はおおよそ P_{gate} \approx Q_g V_{GS} f で、最大値の Qg で計算すると、IRF510 は 1MHz で約 83mW、6.78MHz で約 0.56W、EPC2036 は 6.78MHz・5V で約 31mW です。6.78MHz の IRF510 では、SOT-23 の小さなドライバが 0.5W 級の熱を出す計算になります。周波数を 6.78 倍にすると、Coss とゲート電荷という素子の「容量」が支配的になるというのが、この表から読み取れることです。

ゲート駆動の注意

  • ドライバの電源とゲートのループを最短に。ドライバの電源ピンの直近にセラミックコンデンサを置き、ドライバ出力 → ゲート → ソース → ドライバ GND のループを小さく作る。このループのインダクタンスがゲート電圧のリンギングになる
  • GaN はゲート定格が狭い。EPC2036 は +6V が上限なので、ドライバ電源は 5V にし、リンギングで定格を超えないようにする。EPC はオフのときのゲート電圧を 0V にすることを推奨している
  • GaN の部品ははんだごてでは付けにくい。EPC2036 は 0.9mm 角のバンプ付きダイ、LMG1020 は 0.8×1.2mm の WCSP なので、専用の基板を起こしてホットプレートなどでリフローする前提になる。まずは 1MHz の Si で回路と測定に慣れてから進むのがよい
  • Si5351 の出力はそのままゲートに入れない。3.3V の方形波をゲートドライバで受け、必要な電圧と電流に変換する。UCC27517 の入力は電源電圧によらない TTL/CMOS 互換のしきい値

オシロで ZVS を見る手順

  1. 電源を入れずにゲート波形だけを見る。Si5351 を 1MHz・デューティ 50% に設定し、MOSFET のゲート端子で、Si なら約 10V、GaN なら約 5V の方形波になっていることを確かめる
  2. 安定化電源を 5V・電流制限 0.2A 程度に設定してつなぐ。CH1 をゲート、CH2 をドレインにして同時に表示する
  3. ドレインのプローブは 10:1 にし、付属の長いグランドリードではなくグランドスプリング(短いアース)を使う。長いリードは MHz でリンギングを作り、波形を読み違える原因になる
  4. ゲートが立ち上がる瞬間のドレイン電圧を見ながら、C1 のトリマと周波数を少しずつ動かして、下のチェックリストの形に近づける
  5. 形がそろったら、電源電圧を段階的に 12V まで上げる。各段階で MOSFET とダミーロードの温度を、放射温度計などで確かめる
  6. 負荷の両端の電圧をオシロで測り、実効値 V_{rms} から出力 P_{out} = V_{rms}^2 / R を、電源の電圧と電流の表示から入力電力を求めると、アンプ部の効率の見積もりになる(ゲートドライバの電力は別に数える)

ドレインに当てたプローブの入力容量も C1 に加わります。6.78MHz では C1 そのものが 86pF しかないので、プローブを当てた状態と外した状態で調整点が変わることがあります。プローブ本体に書かれている入力容量を確かめ、測定したままの状態で調整するのが無難です。

何が見えれば ZVS か

見え方 判断
ゲートが立ち上がる瞬間、ドレイン電圧が 0V 付近にあり、その直前の傾きがほぼ水平 ZVS ができている(理想の形)
ドレイン電圧のピークが電源電圧の 3〜4 倍の範囲(理論値は 3.56 倍) 定数がおおむね合っている
ゲートが立ち上がる瞬間に、ドレイン電圧が縦に落ちる ZVS になっていない。0V に戻りきる前にスイッチが入っている
オンの前にドレイン電圧が 0V を少し下回って張り付く ボディダイオードが導通している。ZVS にはなっているが、最適点から外れている
ピークが電源電圧の 4 倍を大きく超える 負荷が設計値より小さい側にずれている可能性。電源電圧を上げる前に止めて見直す

安全上の注意

⚠️ RF と発熱に注意
  • 電力は必ずダミーロードで消費させる。出力に送電コイルやアンテナ代わりになる長い配線をつなぐと、短波帯の電波を空間に出すことになる。配線は短くし、ラジオなどへの妨害を出さない構成で実験する
  • 電波法施行規則 第45条は、高周波のエネルギーを負荷に与える設備のうち 50W を超える高周波出力のものを、許可が必要な設備として定めている。この記事の設計案は数 W 級で、ここから大きく電力を上げる実験はしない
  • ドレインは電源電圧の 3.56 倍以上に振れる。12V 電源でも理論上約 43V になり、調整がずれるともっと上がる。通電中に触らない
  • ダミーロード・MOSFET・ドライバは発熱する。1.66W を受ける 50Ω の抵抗は、定格に余裕のある無誘導タイプを使い、放熱する。巻線抵抗はインダクタンスがあるので負荷に向かない
  • 電源は電流制限をかけてから投入する。GaN の部品は静電気にも注意する

🔧 技術者の所感

ここからは筆者の意見です。

Si と GaN の比較表を作ってみて、ダイヤモンドの発表の重みが分かりやすくなりました。手元の IRF510 は、1MHz なら余裕のある部品ですが、6.78MHz では Coss だけで C1 の枠をほぼ使い切り、ゲートの駆動電力も周波数に比例して膨らみます。GaN にすると、どちらも一けた小さくなります。MHz の電力変換は、素子の「容量」と「熱」との戦いです。ダイヤモンドの強みは表の熱伝導率で、高周波・大電力で素子が出す熱を逃がせることにあります。今回の 6.78MHz の実証は、その戦いの土俵にダイヤモンドが上がったことを示したと受け取りました。

一方で、出力や効率の数字が出ていないので、GaN と比べてどうかはまだ判断できません。発表文が次の一手に「高耐圧化と大電流化」を挙げているとおり、ダイヤモンドの本領は、GaN では熱が厳しくなる電力の領域にあるはずです。CEATEC で展示されたワイヤレス給電のデモボードの続報や、学会での詳細発表で、電力と効率の数字が出てくるのを楽しみにしています。

E 級アンプの波形は、教科書の図で見るより、自分のオシロの上で 0V に「着地」するのを見るほうがずっと面白いです。C1 のトリマを回して、縦の落差が消えて山がなめらかに 0V に降りてくる瞬間は、共振回路の設計が当たったことが目で分かる瞬間でもあります。

✅ まとめ

  • Power Diamond Systems は、ダイヤモンド MOSFET で 6.78MHz の E 級アンプ動作を実証したと発表した。従来報告の数百 kHz から「10 倍以上」、「世界初」は同社調べ。出力・効率の数値は発表文にない
  • ダイヤモンドは、バンドギャップ・絶縁破壊電界・熱伝導率のすべてで Si/SiC/GaN を上回る。基板・研磨・ドーピング、表面の安定化が壁だった
  • E 級アンプは、ドレイン電圧が 0V・傾き 0 に戻った瞬間にスイッチを入れる ZVS で、周波数に比例するスイッチング損失をほぼ消す。6.78MHz は ISM 帯で、AirFuel 方式(IEC 63028)のワイヤレス給電の周波数
  • 手元では、1MHz の IRF510 で E 級アンプと ZVS の波形を確かめ、6.78MHz へは GaN(EPC2036+LMG1020)で進むのが現実的。6.78MHz では Coss とゲート電荷が支配的になることが、設計式から数字で見える

次の一手は、1MHz の Si 版を組んで ZVS の波形を自分の目で確かめることです。そこから GaN の 6.78MHz 版に進めば、ダイヤモンドが挑んでいる「MHz で大電力」の難しさを、自分の基板の温度で実感できます。

よくある質問(FAQ)

Q: ダイヤモンド MOSFET は買えますか?

A: 発表文は評価ボードと素子を CEATEC 2026 で展示したと書いていますが、販売や価格には触れていません。同社は 2025年12月の時点で、2030年代の実用化を目指すとしていました(EE Times Japan)。

Q: 6.78MHz で動いた素子の出力や効率は?

A: 発表文には書かれていません。書かれているのは、6.78MHz で E 級アンプ動作に成功したことと、それが従来報告の 10 倍以上の周波数だということです。

Q: E 級アンプと D 級アンプの違いは?

A: D 級は 2 つのスイッチを交互にオン・オフする方式です。E 級はスイッチ 1 個と共振回路の組み合わせで、スイッチを入れる瞬間の電圧を 0V にする(ZVS)ことを設計の前提にしています。1 つの周波数で正弦波の電力を作る用途に向いていて、ワイヤレス給電の送電回路に使われます。

Q: 手元のオシロで 6.78MHz の波形は見られますか?

A: 帯域が 100MHz クラスのオシロなら、6.78MHz とその高調波をある程度含めて観察できます。ただし、プローブのグランドリードを短くしないと、波形にリンギングが乗って ZVS の判断を誤ります。プローブの入力容量が C1 に加わる点にも注意が要ります。

Q: 実験した E 級アンプでスマホを充電できますか?

A: この設計案はダミーロードで電力を消費させる測定用です。給電用のコイルをつなぐと電波を出すことになり、受電側の回路や規格への適合も必要です。ワイヤレス給電を試すなら、規格に適合した製品や評価キットを使ってください。

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参考