ESP32-H4 は、Espressif が2024年4月に発表したチップです。そこから約2年、2026年3月にサンプル提供が始まり、開発フレームワークの ESP-IDF もプレビュー対応の段階に入りました。「発表だけされていたチップ」が「そろそろ触れるチップ」に近づいた、というのが今の位置づけです。

同じ ESP32-H シリーズでも、H4 は少し毛色が違います。H2 や、2026年3月に発表された H21 が「とにかく省電力」を突き詰めているのに対し、H4 は RISC-V デュアルコアと大きめの SRAM を積んで、処理能力の側を上げた 省電力チップです。

📌 この記事の3行まとめ
  • ESP32-H4 は RISC-V デュアルコア/384KB SRAM/Bluetooth 5.4(LE)対応の、H シリーズの上位版。2024年発表、2026年3月にサンプル提供と ESP-IDF プレビュー対応が始まった
  • 同じ H 系でも、H2・H21 が「省電力を突き詰める」方向なのに対し、H4 は「処理能力を上げる」方向。Wi-Fi は H 系共通で載っていない
  • いま作り手ができるのはサンプル請求とプレビュー環境での試作まで。一般販売や開発ボードの入手性は公式に確定していない

📻 1. ESP32-H4 とは — H 系の中での立ち位置

まず前提として、ESP32 の H 系は「Wi-Fi を積まない」系統 です。無線は IEEE 802.15.4 と Bluetooth Low Energy に絞り、そのぶん消費電力を下げる役割を担います。Espressif 自身も H 系を low-power / ultra-low-power と位置づけています。802.15.4 や Thread・Zigbee・Matter が層になっている話は ESP32 シリーズの選び方ガイド で解説しているので、用語があいまいな方はそちらを先に読むと分かりやすいはずです。

その H 系の中で、H4 の公式スペックは次のとおりです(Espressif 製品ページ・発表ニュースより)。

  • コア: 32-bit RISC-V の デュアルコア、最大 96MHz
  • メモリ: SRAM 384KB + ROM 128KB。外部フラッシュ・外部 PSRAM に対応
  • Bluetooth: Bluetooth 5.4(LE)の全機能に対応し、Bluetooth 6.0 認証も取得
  • 802.15.4: IEEE 802.15.4 に対応。Thread 1.4/Zigbee 3.0/Matter over Thread を想定
  • 電源: 統合 DC-DC コンバータと複数のローパワーモードを備え、公式は ultra-low power と表現
  • I/O: 最大40本の GPIO(うち15本がタッチセンシング対応)
  • セキュリティ: セキュアブート、メモリ暗号化、ECDSA デジタル署名、暗号アクセラレータ、真性乱数生成器
💡 ワード解説:H 系に Wi-Fi が無いのは「削った」からではない

H 系に Wi-Fi が載っていないのは機能を削ったからではなく、802.15.4 で電池駆動の端末を長く動かすという狙いのためです。Wi-Fi はつなぎっぱなしにすると電力を食うので、ボタン電池で何年も動かしたいセンサには重すぎます。「Wi-Fi も 802.15.4 も1チップで欲しい」なら、H 系ではなく C6 や(発表済みの)S31 が候補になります。

🔀 2. H2・H21 と何が違うのか

H 系にはすでに H2 があり、2026年3月には省電力特化の H21 が発表されました。H4 を加えると、同じ「Wi-Fi なし・802.15.4 + BLE」という土台の上で、方向性が二手に分かれているのが見えてきます。

項目 ESP32-H2 ESP32-H21 ESP32-H4
コア RISC-V シングルコア RISC-V シングルコア RISC-V デュアルコア
最大周波数 96MHz 96MHz 96MHz
SRAM 320KB 320KB 384KB
GPIO 最大19本 最大19本 最大40本
Bluetooth 5.3(LE) LE(版の明記なし) 5.4(LE)/6.0 認証取得
802.15.4 あり あり あり
オンチップ DC-DC(公式が明記) あり あり
公式の消費電流 RX 約8.2mA/ライトスリープ 9μA/ディープスリープ 5μA 未公表
位置づけ 省電力の標準 省電力を突き詰めた版 処理能力を上げた版

※ H2 のスペックは 選び方ガイド(H2 データシートに基づく記述)と揃えています。

表の見方はシンプルです。H21 は「省電力を下へ」、H4 は「処理能力を上へ」振った版だと考えると整理できます。

この二方向を図にすると、こうなります(縦=省電力の強さ、横=処理能力)。

quadrantChart title H シリーズの方向性(H2 を起点に二手へ) x-axis 処理能力ひかえめ --> 処理能力を上げる y-axis 省電力は標準 --> 省電力を突き詰める quadrant-1 処理も省電力も高い quadrant-2 省電力に特化 quadrant-3 標準的な位置 quadrant-4 処理に振った省電力 "ESP32-H2": [0.32, 0.45] "ESP32-H21": [0.32, 0.85] "ESP32-H4": [0.82, 0.45]

H21 は、公式が RX 約8.2mA・ディープスリープ 5μA といった電流値を掲げていて、ボタン電池で数年動かす設計に効く数字を出してきました。いっぽう H4 は、デュアルコアと 384KB の SRAM、そして Bluetooth 5.4(LE)+6.0 認証という、処理と通信の余裕を積んでいます。同じ省電力チップでも、狙う機器のグレードが違うわけです。

⚠️ 注意:H4 の消費電流は公式値が出ていない

H21 が具体的な電流値を公表しているのに対し、H4 は現時点で RX 電流やスリープ電流の具体的な数値を公式が出していません。そのため「H4 なら電池が何年もつ」といった比較は、今の段階では数値で語れません。省電力の絶対値をシビアに見たい用途では、数字が公表されている H21 のほうが判断しやすい状況です。

🎯 3. 何に向くのか — 公式が挙げる用途

Espressif が H4 の用途として挙げているのは、次のような機器です(発表ニュース・サンプル提供ニュースより)。

  • ウェアラブル機器
  • ヘルスケア/医療系デバイス
  • LE Audio 機器
  • 低消費電力のセンサ
  • 電池駆動の Matter over Thread デバイス
  • 電子棚札(electronic shelf labels)などの小売向け機器

共通しているのは、「電池で動かしたいが、H2 では処理がやや足りない」あたりの機器です。デュアルコアと外部 PSRAM 対応があるので、BLE Audio のように音を扱う処理や、センサのデータを端末側で少し加工してから送るような使い方に、H2 より余裕を持って回せる見込みです(ただし実機での性能は未計測なので、ここは公式スペックからの推測です)。

逆に、単に温湿度をたまに送るだけのような軽いセンサなら、H4 の処理能力は過剰で、H2 や省電力特化の H21 のほうが素直です。「上位だから H4」ではなく、機器がどれだけの処理を要求するかで選ぶ、という順番になります。

🛠️ 4. いま、どこまで作れるのか

新しいチップで気になるのは「で、今すぐ触れるのか」です。H4 の現在地を、公式情報で確認できる範囲でまとめます。

  • サンプル: 2026年3月27日のニュースで「Samples are now available upon request(サンプルは請求ベースで提供)」と告知されています
  • ESP-IDF: プレビュー対応の段階です。開発者ポータルは「master ブランチが最新のプレビュー対応を含む」とし、H4 で開発するなら master の HEAD に更新するよう案内しています。安定版としての本対応はまだリリースされていません
  • 開発ボード: 一般販売されている開発ボードの入手性については、今回参照した公式情報からは確認できませんでした

ひと目でまとめると、現在地はこうなります。

項目 現在地(公式で確認できる範囲)
サンプル提供 ○ 2026年3月27日から請求ベースで提供
ESP-IDF △ プレビュー対応(master の HEAD)。安定版の本対応は未リリース
開発ボードの一般販売 — 参照した公式情報からは確認できず

つまり、いま作り手ができるのは サンプルを請求し、プレビュー対応の ESP-IDF で試作するところまでです。安定版が要る量産や、店頭で買える開発ボードで気軽に始めたい段階には、まだ届いていません。

すぐ手を動かしたいなら、入手性のある H2 や、Wi-Fi も 802.15.4 も欲しい場合は C6・(発表済みの)S31 が現実的です。H4 は「登場を待ちつつ、必要なら今からサンプルで評価しておく」という距離感が実態に合っています。乗り換えを急ぐ話ではありません。

✅ まとめ

  • ESP32-H4 は、H 系の中で デュアルコア・384KB SRAM・Bluetooth 5.4(LE) を積んだ「処理能力を上げた」省電力チップ
  • H2・H21 が省電力を突き詰める方向なのに対し、H4 は処理の余裕を持たせる方向。Wi-Fi は H 系共通で載っていない
  • 公式が挙げる用途はウェアラブル・ヘルスケア・LE Audio・電池駆動の Matter over Thread デバイスなど、「電池で動かしたいが H2 では処理がやや足りない」層
  • 消費電流の具体値は未公表なので、省電力の絶対値で比べたい用途は H21 のほうが判断しやすい
  • 現在地はサンプル提供+ESP-IDF プレビュー対応。すぐ作るなら H2/C6、H4 は評価から始める段階

❓ よくある質問(FAQ)

Q1. ESP32-H4 は今すぐ買えますか? サンプルは2026年3月27日から請求ベースで提供されています。ただし一般販売や開発ボードの入手性は、公式情報からは確認できませんでした。店頭で買える段階には至っていないとみておくのが無難です。

Q2. H2 から H4 に乗り換えるべきですか? 用途次第です。処理が軽く省電力を最優先したいなら H2 や H21、電池で動かしつつもう少し処理の余裕が欲しいなら H4、という切り分けになります。上位だから乗り換える、という話ではありません。

Q3. ESP32-H4 で Wi-Fi は使えますか? 使えません。H 系は Wi-Fi を積まない系統です。Wi-Fi と 802.15.4 の両方を1チップで欲しい場合は、C6 や(発表済みの)S31 が候補になります。

Q4. 消費電力はどれくらいですか? H4 については、RX 電流やスリープ電流の具体的な数値を公式が公表していません。数値で比較したい場合は、RX 約8.2mA・ディープスリープ 5μA を公表している H21 のほうが判断しやすい状況です。

Q5. Matter や Thread は使えますか? H4 は IEEE 802.15.4 に対応し、Thread 1.4/Zigbee 3.0/Matter over Thread を想定しています。Matter については、ESP-Matter による将来の対応で電池駆動の Thread デバイス開発を簡単にする、と公式が述べています。

Q6. ESP-IDF で開発できますか? プレビュー対応です。開発者ポータルの案内どおり master ブランチの HEAD に更新すれば試作はできますが、安定版としての本対応はまだリリースされていません。本格的に使うなら、その本対応を待つのが安全です。

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