オープンソースの基板設計ツール KiCad に、続けて2つ動きがありました。ひとつは安定版 10.0.5 の正式リリース(2026年7月22日)、もうひとつは 9月に開かれる KiCon Europe 2026 の開催概要が出そろったことです。
どちらも「これから KiCad を初めて触る」話というより、「すでに使っている人が次に何をするか」に関わる話です。3月の 10.0.0 で入った新機能そのものの解説ではなく、あれから4ヶ月でどこまで安定版が固まり、コミュニティが次にどこへ向かうか——という現在地に絞ってまとめます。
- KiCad 10.0.5 が2026年7月22日に正式リリース。約200件超のバグ修正を含む安定版で、公式は「重要な修正が含まれるため、できるだけ早くアップグレードを」と案内している
- 直った内容は、ビアが undo/redo で別ネットに化ける・ティアドロップがネットをショートさせる・終了時クラッシュなど、実際に基板を発注する場面で踏みやすいものが中心
- KiCon Europe 2026 は9月7〜9日、ドイツ・ボーフムで開催。チケット販売と発表募集(CfP)がともに受付中
📦 1. KiCad 10.0.5 が正式リリース(2026年7月22日)
2026年7月22日、KiCad プロジェクトは安定版 10.0.5 をリリースしました。公式ブログは「The KiCad project is proud to announce the version 10.0.5 bug fix release」と告知しています。
1週間前の7月15日に RC1(リリース候補)が公開されており、そこで重大な問題が出なかったため正式版に至った、という流れです。
Release Candidate の略で、正式リリースの直前に配る「これで問題なければ正式版にする」というテスト版です。ここで致命的なバグが見つからなければ、ほぼ同じ内容が安定版として公開されます。RC の段階では、本番プロジェクトへの導入は基本的に見送るのが無難です。
位置づけとしては、10.0.5 は新機能を足すメジャー更新ではなく、3月の 10.0.0 から続くバグフィックス系列の5本目です。公式はこのリリースを critical bug fixes と表現し、「several critical bug fixes so please consider upgrading as soon as possible(重要なバグ修正が複数含まれるため、できるだけ早くアップグレードを検討してほしい)」と案内しています。Windows・macOS・Linux 向けのパッケージが提供されています。
10.0.0 から 10.0.5 までのリリースの歩みを図にすると、こうです。
3月のメジャー更新からのパッチの間隔は、次のとおりです。
| バージョン | リリース日 |
|---|---|
| 10.0.0 | 2026-03-20 |
| 10.0.1 | 2026-04-15 |
| 10.0.2 | 2026-05-09 |
| 10.0.3 | 2026-05-15 |
| 10.0.4 | 2026-06-21 |
| 10.0.5 RC1 | 2026-07-15 |
| 10.0.5 正式版 | 2026-07-22 |
約4ヶ月で5回の安定版という速いパッチ間隔は、10.0 系が実務で使い込まれ、見つかった穴が着実に塞がれてきたことの表れでもあります。
🔧 2. 10.0.5 で何が直ったのか
公式ブログによると、修正は全体で200件を超えます。カテゴリ別ではボードエディタが最多(約90件超)で、回路図エディタ(約40件超)、全般(約35件)と続きます。ここでは、電子工作・個人設計で踏みやすいものを中心に抜き出します。
| 主なカテゴリ | 修正の規模(公式ブログより・概数) |
|---|---|
| ボードエディタ | 約90件超(最多) |
| 回路図エディタ | 約40件超 |
| 全般 | 約35件 |
※上表は主なカテゴリです。ほかにインポーター・DRC・3D ビューア・プラットフォーム別の修正も含め、全体で200件を超えます。
- 全般:終了時・メインウィンドウを閉じたときのクラッシュ / 巨大なジオメトリで破線描画がハングする問題 / 不正なダッシュ配列で PDF 出力が壊れる問題
- 回路図エディタ:貼り付け時のシンボル・アノテーションの不具合 / GND ピンの ERC で Earth・VSS ネットも対象に含める修正
- ボードエディタ:ビアが undo/redo で別ネットに化ける問題 / ティアドロップ生成器が銅箔上の抜き文字(ノックアウト)にかかるとネットをショートさせる問題 / 基板カットアウトが重なったときの沿面距離の誤り / ゾーン塗りつぶしで最小幅に満たない細い突起(sliver)が出る問題
- インポーター:PADS・Altium・Eagle・CADSTAR 向けに、フットプリントの回転・文字エンコーディング・図形処理の修正
- DRC / 3D ビューア:沿面距離計算の修正とルールエディタ UI の改善 / 3D ビューアがバリアント表示に対応し、面のちらつき(Z-fighting)を防止
ビアが undo/redo で別ネットに変わる、ティアドロップがネットをショートさせる——この手の不具合は、画面上は正常に見え、DRC を通っても、製造後の基板で初めて気づくタイプです。試作を1枚無駄にしてから原因にたどり着く、という失い方をしがちなので、実際に発注する人にとってはこの安定版で潰れた意味が大きい修正です。
これらはいずれも新機能ではなく、10.0 系を実務で使い込む中で見つかった穴を塞ぐ更新です。新機能の中身そのもの(Allegro・PADS インポーターやバリアント設計、グラフィカル DRC など)は3月の 10.0.0 で入ったもので、詳しくは後述の関連記事にまとめています。
🎤 3. KiCon Europe 2026 が9月7〜9日に開催
もうひとつの動きが、KiCad の公式カンファレンス KiCon の欧州版、KiCon Europe 2026 の開催概要が公開されたことです。
KiCad の開発チームとユーザーが集まる公式コミュニティカンファレンスです。ユーザー向けの活用事例から、開発者向けの内部実装の議論まで扱われ、KiCad が次にどこへ向かうかが語られる場になっています。北米版と欧州版があり、今回は欧州版です。
公式が公開している概要は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 日程 | 2026年9月7〜9日 |
| 会場 | ドイツ・ボーフム(Gleis 9, Am Kulturgleis 9, 44787 Bochum) |
| チケット | 販売中(公式チケットサイト経由) |
| 発表募集(CfP) | 受付中 |
公式は本イベントを「a European conference to discuss and develop all things KiCad(KiCad に関するあらゆることを議論し、育てるための欧州カンファレンス)」と説明しています。会期のうち前半が講演、後半にトレーニングやワークショップという構成で、ユーザー向け・開発者向けの両方の内容が予定されています。会場は昨年(2025年)と同じボーフムです。
現地に足を運べなくても、日程や講演の一覧は公式サイトに掲載されています。参加費や当日の詳細なプログラムは今後変わりうるため、最新情報は公式で確認してください。
🧭 4. いま、どのバージョンを入れておくか
「買うべきか」ではなく、すでに KiCad を使っている人・これから触る人が、いま現実的にどうするか——という視点で整理します。
- すでに 10.0.x を使っている → 10.0.5 へ上げるのが素直です。公式が critical と表現する修正が入っており、特にビア・ティアドロップのネット取り違えは、発注前に踏むと試作の作り直しにつながります
- まだ 9 系のまま → 10 系はファイルの後方互換がありません(10 系で保存すると 9 系では開けなくなります)。急いで移行する理由がなければ、パッチが5本当たって落ち着いた 10.0.5 は、移行に踏み切るタイミングとしては悪くありません。移行手順そのものは関連記事にまとめています
- Python プラグインや jobset を使っている → 10 系は Python API に変更が入っています。使っているプラグインが 10 系に対応しているかを確認してから上げてください
新機能の詳細・V9 → V10 の移行手順・10.0 系のパッチ履歴は、別記事「KiCad 10.0 新機能まとめ」に一通りまとめてあります。この記事では重複を避け、そちらへ委ねます。
✅ まとめ
いまの KiCad は、「3月のメジャー更新で機能が出そろい、そこから4ヶ月かけて安定版を固めてきた」局面にあります。10.0.5 はそのひとつの到達点で、新機能を追いかける段階から、安心して実務で使う段階へ移りつつあります。
そして次は、9月の KiCon Europe 2026 でコミュニティが顔を合わせ、KiCad がこの先どこへ向かうかが語られるフェーズに入ります。ツールとしての成熟と、コミュニティとしての次の一手——その両方が同時に動いているのが、いまの KiCad の現在地です。
❓ よくある質問(FAQ)
Q. 10.0.5 は安定版ですか、それとも RC ですか? A. 安定版(正式リリース)です。2026年7月22日に公開されました。7月15日の RC1 で重大な問題が出なかったため、正式版に至っています。
Q. 10.0.4 から 10.0.5 に上げるべきですか? A. 公式は「重要なバグ修正が複数含まれるため、できるだけ早くアップグレードを」と案内しています。ビア・ティアドロップのネット取り違えや終了時クラッシュなど、実務で踏みやすい修正が入っているため、上げておくのが無難です。
Q. 10.0.5 で新機能は増えましたか? A. 10.0.5 はバグフィックス版で、新機能の追加が主目的ではありません。Allegro・PADS インポーターやバリアント設計といった新機能は3月の 10.0.0 で入ったものです。詳細は関連記事を参照してください。
Q. KiCon Europe 2026 はいつ・どこで開かれますか?参加費は? A. 2026年9月7〜9日、ドイツ・ボーフムで開催されます。チケットは公式のチケットサイトで販売中です。参加費の金額は変動しうるため、正確な額は公式サイトで確認してください。
Q. KiCad 9 で作ったプロジェクトを 10.0.5 で開けますか? A. 開けます。ただし 10 系で保存すると 9 系では開けなくなります(後方互換なし)。チームで作業している場合は、全員で足並みをそろえて移行してください。
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