はじめに
Espressif の高性能チップ ESP32-P4 を、Raspberry Pi のような形状の基板に載せ、20ドル前後から買える製品があります。Waveshare の ESP32-P4-Module-DEV-KIT です。40ピンの GPIO ヘッダ、MIPI のカメラ・ディスプレイ端子、Ethernet、Wi-Fi 6——見た目も端子構成も、確かにラズパイに似ています。
ただ、先に正直に書いておきます。これは「今日出た新製品」ではありません。 この“ラズパイ型”の P4 ボードは、海外の技術メディアで2025年4月にはすでに紹介されており、Waveshare は NANO・Pico・ETH など複数の P4 ボードを展開してきました。つまり本当のニュースは「新発売」ではなく、ESP32-P4 を載せたボードの選択肢が出揃い、20ドルから普通に買える段階に来た、ということです。
そして、この記事の他にない価値がもう一つあります。当サイトは 2026年8月1日に、ESP32-P4 の実機実録を公開しています(公式の EV-Board で公式サンプルを動かすまでの壁を実測)。自分で実際に動かしたあの P4 が、20ドルのラズパイ型基板に載っている——その視点から、このボードの立ち位置を読み解きます。
本記事は 2026年8月3日時点の Waveshare 公式(製品ページ・ドキュメント)と技術媒体(CNX Software・Hackster)で確認した内容にもとづきます。スペックは公式ドキュメントの表記を採用し、確認できない値は書きません。新しいボードを筆者が購入・使用したわけではありません。 実機の話は、すべて既報のESP32-P4 実機実録(公式 EV-Board での実測)に限ります。
🧭 1. ESP32-P4 とは何者か——Linux SBC ではない
まず大前提から。ESP32-P4 は、Linux が動く「小さなPC」ではありません。 高性能なマイコン(マイクロコントローラ)です。
ESP32 と聞くと Wi-Fi マイコンを思い浮かべますが、P4 は毛色が違います。RISC-V のデュアルコア(チップメーカー Espressif の公称で最大400MHz、加えて低消費電力コア最大40MHz)という演算力と、MIPI のカメラ・ディスプレイインタフェースに思い切り振ったチップで、P4 自体には無線が載っていません。位置づけとしては、従来の ESP32 マイコンと、ラズパイのようなアプリケーションプロセッサの中間にあたります。画像のエンコード/デコードをハードウェアで加速する機能も持ちます。
なお、クロックの表記には少し幅があります。Espressif の公称は最大400MHzですが、この Waveshare ボードのドキュメントでは360MHzと記載されており、実際、当サイトが公式 EV-Board を動かしたときも起動ログのアプリ動作クロックは360MHzでした(実機実録)。カタログの上限値と、実際に動いている値は必ずしも一致しません。なぜ360MHzで動くのか、その理由まではこちらでは分かっていません。
マイコンは、1チップで完結する小さな制御用コンピュータ。OS 無し、または軽量な RTOS で、決まった処理を確実にこなします(ESP32 や Arduino がこれ)。 アプリケーションプロセッサは、Linux などの汎用 OS を載せて、複数のアプリを走らせる前提の高性能な CPU(ラズパイやスマホの中身)。 ESP32-P4 は前者(マイコン)の高性能版で、後者ではありません。「ラズパイ型の見た目」でも、中身の思想は別物です。
🧩 2. このボードの中身(公式スペック)
Waveshare 公式ドキュメントで確認できる主な仕様は次のとおりです。
| 項目 | 内容(Waveshare 公式ドキュメント) |
|---|---|
| メインチップ | ESP32-P4(RISC-V デュアルコア。ボード資料表記は360MHz/チップ公称は最大400MHz+低消費電力コア最大40MHz) |
| メモリ | パッケージ内 PSRAM 32MB/モジュール上 Nor Flash 16MB |
| 無線 | オンボードの ESP32-C6 コプロセッサ(Wi-Fi 6/Bluetooth 5・BLE) |
| ストレージ拡張 | SDIO 3.0 の microSD(TF)カードスロット |
| 拡張ヘッダ | 2×20 ヘッダに 28本のプログラマブル GPIO/PoE モジュール用インタフェース(別売) |
| 映像・音声 | MIPI-CSI(カメラ)/MIPI-DSI(ディスプレイ)/スピーカー端子・マイク |
| 有線・USB | 100Mbps Ethernet/Type-A USB 2.0 OTG/Type-C UART 書き込みポート |
| 価格 | 20ドル前後から(構成により変動・報道と公式ストア表記による) |
無線がオンボードの ESP32-C6 で提供される点が、P4 ならではの構造です(P4 本体に無線が無いため)。カメラモジュールや 7型・10.1型のタッチパネルとセットにしたバンドルも用意されています。
🔀 3. ラズパイと何が違うのか——ここを誤解しない
見た目が似ているぶん、いちばん誤解されやすいのがここです。ラズパイの置き換えにはなりません。 3者の立ち位置を並べると、はっきりします。
| 観点 | Linux SBC(ラズパイ等) | ESP32-P4 | 従来 ESP32 |
|---|---|---|---|
| OS | Linux(汎用OS) | OS無し/RTOS(マイコン) | OS無し/RTOS |
| 得意 | 複数アプリ・デスクトップ・サーバ | 映像・カメラ・高速演算の組み込み | Wi-Fi/BLE の定番用途 |
| 無線 | 内蔵(機種による) | 別チップ(C6)で担当 | 内蔵 |
| 起動 | OS 起動が要る | 即起動(マイコン) | 即起動 |
ラズパイは「小さな Linux コンピュータ」、P4 は「映像に強い高性能マイコン」。40ピンヘッダやカメラ端子が似ていても、動かすソフトの世界が違います。 ラズパイで Python スクリプトを常駐させるような使い方をそのまま持ち込む、という話ではありません。
📡 4. 無線は C6 が担う——実機で確かめた構造
P4 に無線が無い代わりに、無線はコンパニオンチップ ESP32-C6 が担当します。これは仕様書の話にとどまりません。当サイトが公式 EV-Board で実機検証したときも、無線は C6-MINI-1 が受け持ち、P4 とは SDIO で通信する構造でした。
そして、この構造は実装上の“クセ”も持ち込みます。実機実録では、C6 と SDIO で通信するデモが起動時に落ちる場面に遭遇し、バッファを PSRAM へ逃がす1行で回避しました。「P4+C6」という二段構えは強力ですが、無線まわりは C6 との連携を意識する必要がある——これは実際に動かして分かったことです。
🧱 5. 実機で分かっていること(公式ボードでの実測)
新しい Waveshare ボードは筆者は触っていません。ただ、同じ ESP32-P4 チップを公式 EV-Board で動かした実測は、このボードを見る目としてそのまま役立ちます。実機実録(2026年8月1日・Windows 11)で分かったことのうち、チップに起因する部分を挙げます。
- 32MB PSRAM と MIPI の速さは本物。LVGL の UI ベンチで全体平均45FPS が出ており、映像・GUI 用途での地力は確かでした
- 初期ロット(rev v1.x)は、既定設定のままだと素直に動かないことがある。sdkconfig に数行足す、PSRAM 速度を落とす、といった調整が要りました(ボードの rev により事情は変わります)
- ESP-IDF のバージョン依存が強い。公式サンプルは 5.5.3 以上の 5.5 系が必要で、6.0 系では 2026年8月1日時点でそのままビルドできませんでした(LVGL アダプタが 6.0 の API 変更に未追随)
くわしい「症状 → 原因 → 対処」は、ESP32-P4 実機実録|公式サンプルを動かすまでの壁と実測にまとめています。P4 全体の立ち位置はESP32 シリーズの選び方|S3・C3・C6・H2・P4 の違いと使い分け、無線世代(Wi-Fi 6)の話はESP32-S31 発表|Wi-Fi 6・イーサネット搭載、ESP32-S3と何が違うのかもどうぞ。
🧑💻 6. 筆者の見方
最初に正直に書くと、この Waveshare のボード自体は、筆者はまだ買っても触ってもいません。 だから使用感は語れません。以下は、公式 EV-Board で P4 を動かした実体験からの「関心」として読んでください。
そのうえで素直に良いと思うのは、あの P4 が20ドル前後で、ラズパイ型の素直な形で手に入るようになったことです。筆者が触った公式 EV-Board は 7型パネルやカメラ込みの“全部入り”で、P4 の実力を測るには良い一方、気軽に一枚買って机に転がすには少し重い存在でした。20ドルの単板があるなら、P4 を試すハードルは確実に下がります。
いちばん気になっているのは、実機実録で詰まった点が、この価格帯のボードでも同じように出るのかです。初期ロットの sdkconfig 調整、ESP-IDF 5.5 系必須(6.0 で詰まる)、C6 の SDIO まわりの assert——これらはチップやサンプルに起因する部分が多く、ボードが変わっても付いて回りそうだ、というのが実体験からの予想です。ここは、実際に買って動かさないと断言できません。「安く手に入る」と「素直に動く」は別の話だと、EV-Board で学びました。だからこそ、次に触るならまずそこを確かめたいと思っています。政治的な評価をするつもりはなく、一人の作り手としての関心です。
✅ まとめ
- Waveshare の ESP32-P4-Module-DEV-KIT は、P4 を Raspberry Pi 形状に載せ20ドル前後から買える基板。ただし新発売ではなく、2025年から報じられ P4 ボードの選択肢が出揃った段階
- 公式スペック:RISC-V デュアルコア(チップ公称 最大400MHz・ボード資料/実機は360MHz)・PSRAM 32MB・Flash 16MB・C6 で Wi-Fi 6/BLE・SDIO3.0・28本GPIO・2レーンMIPI CSI/DSI・100M Ethernet
- ★ラズパイの置き換えではない。Linux は動かない高性能マイコン。40ピンやカメラ端子が似ていても、動かすソフトの世界が違う
- 無線は C6 が担当(P4 本体に無線なし)。実機でも P4↔C6 は SDIO 連携で、実装上のクセもある
- チップの地力(32MB PSRAM・MIPI・LVGL 45FPS)は実機で確認済み。一方、初期ロット調整・ESP-IDF 5.5系必須など「素直に動くとは限らない」も実測済み
よくある質問(FAQ)
Q. これは Raspberry Pi の代わりになりますか?
A. なりません。見た目や40ピンヘッダは似ていますが、ESP32-P4 は Linux が動かないマイコンです。ラズパイのように OS を載せて複数のアプリやデスクトップを動かす用途には向きません。得意なのは、カメラや画面を使った高性能な組み込み制御です。用途が違う、と捉えるのが正確です。
Q. これは今日出た新製品ですか?
A. いいえ。この“ラズパイ型”の ESP32-P4 ボードは、海外の技術メディアで2025年4月にはすでに紹介されています。Waveshare は NANO・Pico・ETH など複数の P4 ボードを展開しており、今回の話は「新発売」ではなく、20ドルから買える選択肢が出揃ってきたという位置づけです。
Q. 無線はどうやって使うのですか?
A. ESP32-P4 自体には無線が載っていないため、ボード上の ESP32-C6 コプロセッサが Wi-Fi 6/Bluetooth を担当します。P4 と C6 は内部で連携(当サイトの実機検証では SDIO 経由)して動きます。
Q. 買えばすぐ公式サンプルが動きますか?
A. チップの実力は確かですが、「安く手に入る」と「素直に動く」は別問題です。当サイトが公式 EV-Board で試した際は、初期ロットの設定調整や ESP-IDF のバージョン依存(5.5系が必要・6.0系で不可の場面)でつまずきました。新しい Waveshare ボードは筆者未検証のため断言できませんが、チップ由来の注意点は共通しうると考えられます。
Q. この記事のスペックや価格は正確ですか?
A. スペックは Waveshare 公式ドキュメントの表記、価格は公式ストア・報道にもとづく2026年8月3日時点の情報です。構成(バンドル内容)や在庫で価格は変動します。正確な最新情報は末尾の公式リンクで確認してください。
参考
- ESP32-P4-Module-DEV-KIT(Waveshare 公式 製品ページ)
- ESP32-P4-Module-DEV-KIT(Waveshare 公式ドキュメント・スペック)
- ESP32-P4(Espressif 公式・チップ仕様 最大400MHz)
- ESP32-P4 credit card-sized board features Ethernet, WiFi 6, 40-pin GPIO header…(CNX Software・2025年4月4日)
- Waveshare Puts Espressif’s Latest ESP32-P4 Module on a Raspberry Pi-Style Single-Board Computer(Hackster.io)
本記事は Waveshare 公式と技術媒体の情報にもとづいて整理したものです。新しいボードの使用感は筆者未検証であり、実機の記述は既報の公式 EV-Board 実測に限ります。価格・仕様は変わり得ます。