はじめに:はんだごての次に要るもの

電子工作を始めると、はんだごての次に必要になるのが消耗品です。はんだ・フラックス・はんだを外す道具・洗浄剤——このあたりを、実際に使っている製品と正直な感想でまとめました。高機能な"正解"を並べるより、普段づかいのリアルをそのまま書きます。

はんだ2種・フラックス・フラックスクリーナー・はんだ吸取線・はんだ吸取器を並べた消耗品一式

この記事で扱う消耗品。左から HOZAN HS-372(鉛フリー0.6mm)、goot SE-56010(有鉛1.0mm)、フラックスクリーナー、HAKKO FS-242(フラックス)、HAKKO FR551-2515-J(吸取線)、HAKKO SPPON(吸取器)

はんだごて本体・コテ先・温度設定については姉妹記事の電子工作に使用するはんだごて(Hakko FX600-02)にまとめています。本記事は「消耗品」に絞ります。

※本記事には Amazon アソシエイト等のアフィリエイトリンクを含みます。


🧵 はんだの選び方

はんだは、いま2種類を使い分けています。メインは有鉛の1.0mm、細かい作業用に鉛フリーの0.6mmという組み合わせです。

メイン:goot SE-56010(有鉛・1.0mm)

項目 仕様
メーカー 太洋電機産業(goot)
品番 SE-56010
合金組成 Sn-Pb 60/40(スズ60%)
融点 183〜190°C
線径 1.0mm
内容量 500g(ヤニ入り・リール巻き)

普段のメインは、この1.0mmの有鉛はんだです。6年前くらいからのお付き合いで、500g もあるとなかなか使いきれず、いまだに現役です。なくなったら鉛フリーに切り替えたいとは思っているものの、なかなか無くなりません。市販の部品はほぼ鉛フリー前提の時代なので、これはいわば「移行途中」の正直な状態です。

※有鉛はんだを扱う際の衛生・換気については後述の「安全」を参照してください。

goot SE-56010 有鉛はんだ 1.0mm

Amazonで見る → goot SE-56010

サブ:HOZAN HS-372(鉛フリー・0.6mm)

項目 仕様
メーカー ホーザン(HOZAN)
品番 HS-372
合金組成 Sn-0.7Cu(鉛フリー)
融点 227°C(固相/液相とも)
線径 0.6mm
内容量 100g

1.0mm だと少し太いと感じる場面用に、0.6mm のものも持っています。このくらいの細さだと、1206 くらいのチップ部品の表面実装はやりやすいです。合金は Sn-0.7Cu で、鉛フリーの中でもよく使われる SAC305(Sn-Ag-Cu)とは別物です。

HOZAN HS-372 鉛フリーはんだ 0.6mm

Amazonで見る → HOZAN HS-372

💡 共晶と「融点の幅」

はんだは配合によって溶け方が変わります。有鉛の Sn63Pb37 は共晶(きょうしょう)組成で、183°C の単一の温度でスッと溶けて固まります。一方 SE-56010 の 60/40 は共晶から少し外れているため、183〜190°C という幅を持ちます(この温度帯は一部が溶けて一部が固いままの状態)。鉛フリーの Sn-0.7Cu は 227°C とさらに高めです。

融点が高いぶん、鉛フリーはこて先温度も少し高めが要ります。具体的な温度設定は姉妹記事にまとめているので、そちらを参照してください。

鉛入りと鉛フリー、どう選ぶ?

実際に両方を使っていて感じるのは、まず仕上がりの見た目の違いです。鉛入りのはんだの方が光沢があって、いわゆる「はんだ付けらしい」ツヤのある見た目になります。作業性についても、一般に有鉛(共晶)は融点が低く濡れ性がよいぶん、はんだが流れやすく付けやすいとされます。

同じ基板の同じパッドを有鉛はんだと鉛フリーはんだで仕上げた比較写真

同じ基板・同じパッドでの比較。左が有鉛、右が鉛フリー(画像内の表記は「無鉛」)。有鉛は光を反射してツヤがあり、鉛フリーは白っぽいつや消しの表面になっている

ここで一つ知っておくと安心なのが、鉛フリーは光沢が無くても不良とは限らないという点です。鉛フリーの接合部はつや消し(ざらついた白っぽい)仕上がりになりやすく、これは合金の性質による正常な状態で欠陥ではない、とされています。有鉛時代の「光沢=良品」という目安がそのまま通用しないので、自分の鉛フリー接合を見て「失敗した」と早合点しないようにしたいところです。

どちらが正解というより、作業のしやすさや見た目の好み、そして健康・環境への影響なども考えて選べばいいと思っています。鉛フリー/有鉛の詳しい特性比較(融点・濡れ性・見た目・強度・RoHS)は姉妹記事の表にまとめているので、迷ったらそちらを参照してください。


🧪 フラックス

💡 フラックスの役割

フラックスは、金属表面の酸化膜を取り除き、はんだの濡れ(広がり)を良くするための補助剤です。はんだが玉になって乗らないときに少し足すと、スッと流れるようになります。

使っているフラックス:HAKKO FS-242

  • 白光(HAKKO) 電子部品用フラックス FS-242(10ml・ハケ付きボトル)

基本的に白光のものしか使ったことがありませんが、あると便利です。ひとつ注意点があって、ビンが丸くて倒れやすいこと。こぼすと机の上がベタベタになって、IPA などの溶剤で一生懸命拭く羽目になります。

HAKKO FS-242 電子部品用フラックス 10ml

Amazonで見る → HAKKO FS-242

倒れやすいので、転倒防止ホルダーを自作した

丸いビンは、机の上で意外とよく倒れます。こぼすと後始末が面倒……というのが地味にストレスだったので、倒れないためのホルダーを3Dプリンタで作りました。同じことで困っている人向けに BOOTH で公開しています(プリント用のデータだけでも入手できます)。

3Dプリンタ製ホルダーに差し込む直前のHAKKO FS-242フラックス瓶

差し込む直前。HAKKO FS-242 は10mlの丸ビンで、ホルダーの上に載せただけの状態

3Dプリンタ製ホルダーに差し込んだ状態のHAKKO FS-242フラックス瓶

差し込んだ後。ビンの下半分がホルダーに収まり、接地しているのは底の広い樹脂ブロックだけになる

転倒防止ホルダーを見る(BOOTH)→


🧹 はんだを外す:吸い取り線と吸い取り器

はんだを外す道具は、吸い取り線(ソルダーウィック)と吸い取り器(スッポン)の2つを、用途で使い分けています。

はんだ吸い取り線:HAKKO FR551-2515-J

  • 白光(HAKKO) はんだ吸取線 FR551-2515-J(2.5mm × 1.5m・ハロゲンフリーフラックス・無洗浄タイプ)

正直、吸い取り線にはあまりこだわっていなくて、これを使っています。製品ごとの違いも、正直あまり分かっていません。「何でもいいんじゃないの」という思いも半分あります。ただ太さは2〜3mmくらいが使いやすい、というのは個人的な感覚としてあります。表面実装をよく扱うなら、このあたりを1本持っておくとよいと思います。

HAKKO FR551-2515-J はんだ吸取線 2.5mm×1.5m

Amazonで見る → HAKKO FR551-2515-J

はんだ吸い取り器:HAKKO SPPON

  • 白光(HAKKO) 簡易はんだ吸取具 SPPON(吸入量12cc・ガード付き・18G)

こちらも便利です。というより、はんだを吸い取るだけならこっちの方をよく使うかもしれません。ボタンを押すとバネの力で一気に吸うタイプで、吸っていて気持ちいいんです。このサイズだと片手で扱えるので使いやすく、掃除もちょっと気持ちよくて、張り付いたはんだを剥がすのが妙に楽しい道具です。

HAKKO SPPON 簡易はんだ吸取具

Amazonで見る → HAKKO SPPON

吸い取り線と吸い取り器の使い分け

どちらか一方ではなく、外したい対象で選ぶと失敗が少ないです。

状況 向いている道具 理由
スルーホールの穴を開け直す・部品を外す 吸い取り器(スッポン) 穴の中のはんだを吸い出して、1回で穴を空けやすい
表面のブリッジ・パッド上の余分なはんだ 吸い取り線 狙った場所だけに局所的に熱を当てて吸える
まず大量のはんだを減らす 器で粗取り → 線で仕上げ 器でざっくり、線で残りをきれいに
✅ 吸えないときは熱不足を疑う

吸い取り線でうまく吸えない原因の多くは熱不足です。吸い取り線は自分自身が熱を奪うので、こて先の温度や熱容量が足りないと溶けきりません。線が黒ずんで酸化しているときは、明るい銅色まで切り戻してから使います。


🧼 洗浄・フラックスリムーバー

使っている洗浄剤:サンハヤト FL-300

  • サンハヤト フラックスクリーナー FL-300(420ml・スプレータイプ)

フラックスは、まあ付いていても問題ないことが多いのですが、基板がベタベタになったときや、見た目をきれいにしたいときに使っています。私はスプレータイプで吹き飛ばすことが多いです。吹き飛ばして周囲に飛び散ると困りそうなときは、液体タイプを綿棒や不織布に付けてこする、という手もあります。

IPA(イソプロピルアルコール)でもいいと思います。ただし99%以上で、水が含まれていないものを使うのがおすすめです(水分が多いと乾きにくく、跡が残りやすいため)。

サンハヤト FL-300 フラックスクリーナー スプレータイプ

Amazonで見る → サンハヤト FL-300

⚠️ 溶剤を使うときの注意

フラックスクリーナーやIPAなどの溶剤は引火性があります。換気して火気を避けて使い、プラスチックを傷める製品もあるので、使う前に各製品のSDS(安全データシート)や注意書きを確認してください。

なぜ「99%以上・無水」のIPAがいいのか

「99%以上・水を含まないもの」をすすめるのは、乾きやすさだけが理由ではありません。残った水分が電子回路の信頼性に悪さをすることがあるからです。おおまかには、次のような機序が知られています。

  • 部品の下は乾きにくい:ICやチップ部品と基板の隙間(スタンドオフ)は狭く、いったん入り込んだ水分が抜けにくくなります
  • 残渣と水分で電気を通しやすくなる:フラックス残渣などのイオン性の汚れは吸湿性があり、水分と一緒になると、絶縁抵抗(SIR)の低下やリーク電流につながることがあるとされています
  • 通電下では短絡に至ることも:電圧がかかった状態で水分と残渣がそろうと、金属イオンが移動して導体間に橋を架け(電気化学マイグレーション/デンドライト)、ショートの原因になりうるとされています
  • 金属の腐食:残った水分は、金属部の腐食(錆)の一因にもなりえます

高純度(99.9%)のIPAは無水で、水より速く蒸発して残渣を残さず、腐食を起こさないとされています。むしろ吸湿性があるので、表面の水分を取り込んで乾かす方向に働きます。逆に、ミネラル(イオン分)が残る水道水は洗浄には使いません。

💡 ワード解説:SIR・ECM・デンドライト

SIR(表面絶縁抵抗)は、隣り合う導体の間の絶縁の強さ(抵抗値)です。汚れや水分で下がると、流れてはいけない電流(リーク)が生じやすくなります。

電気化学マイグレーション(ECM)は、電圧がかかった状態で、水分と汚れを介して金属イオンが移動する現象です。

デンドライトは、ECM で析出した金属が木の枝のように伸びて、導体の間を橋渡ししたものです。これが伸びると短絡(ショート)します。

⚠️ なぜ無水IPAなのか

必ず壊れるわけではありませんが、含水率の高いIPAや水道水は水分と残渣が残りやすいぶん、絶縁の低下・ショート・腐食のリスクを上げます。手軽に使うなら99%以上のIPAを選び、洗浄後はしっかり乾かすのが無難です。


⚠️ 安全(鉛・ヒューム・溶剤)

はんだ付けは楽しい作業ですが、扱うものの性質上、いくつか基本的な注意があります。断定的な健康アドバイスではなく、一般的な注意として書いておきます。

鉛は、粉じん・ヒュームの吸入や、手を洗わずに飲食することなどで体内に取り込まれ得るとされています(英国 HSE の一般向け資料)。有鉛はんだを扱うときは、作業場所で飲食しない・作業後は手を洗うといった基本的な衛生を心がけるとよいでしょう。健康や環境への配慮から、はんだの鉛フリー化(EU の RoHS 指令など)が進んだ背景もあります。

⚠️ 換気とヒューム対策

はんだ付けで出る煙(特にロジン系フラックスのヒューム)について、英国 HSE は職業性喘息の主要な原因の一つとして、換気やヒューム排気を推奨しています。窓を開ける、卓上の排煙ファン(吸煙器)を使うなどして、煙を顔に直接浴びないようにするのが無難です。

正直な話:家では吸煙器を使えていない

……と、一般論としてはそのとおりなのですが、正直に書くと、自宅では特別なヒューム対策はしていません。仕事では白光(HAKKO)の卓上吸煙器 FA-400(セット品番 FA400-01)を使っているものの、家で同じように使うと少しうるさく感じて、つい省いてしまっています。

とはいえ、絶対に使った方がいいのは分かっています。同じように「分かってはいるけど、つい……」という人も多いのではないでしょうか。まずは窓を開けて換気する、煙を顔に直接浴びない、それだけでも違います。無理なくできる範囲から始めるのがよさそうです。

溶剤(フラックスクリーナー・IPA など)の引火性・換気・材料への影響については、前節の注意もあわせて確認してください。


🗺️ 困ったときの早見

「はんだが乗らない」「外したい」「残渣が気になる」——症状から、使う消耗品を切り分けると迷いにくいです。

flowchart TD A["はんだ付けで困った?"] --> B{"症状は?"} B -->|"はんだが乗らない・玉になる"| C["原因を切り分け"] C --> C1["酸化・濡れ不良
→ フラックスを足す"] C --> C2["熱不足
→ こて先温度を上げる/太いコテ先"] C --> C3["鉛フリーで高融点
→ こて先温度を高めに"] B -->|"はんだを外したい"| D{"どこの?"} D -->|"スルーホールの穴"| D1["吸い取り器(スッポン)"] D -->|"表面・ブリッジ・パッド"| D2["吸い取り線(ウィック)"] B -->|"残渣・仕上げが気になる"| E["フラックスクリーナー/IPAで洗浄
換気・SDS確認"]

図が表示されない場合の要約は次のとおりです。

  • はんだが乗らない・玉になる → 酸化や濡れ不良ならフラックスを足す/熱不足ならこて先温度を上げるか太いコテ先に/鉛フリーは融点が高いので高めの温度に
  • 外したい → スルーホールの穴は吸い取り器、表面のブリッジやパッドは吸い取り線
  • 残渣が気になる → フラックスクリーナーやIPAで洗浄(換気・SDS確認)

✅ まとめ

  • はんだ:メインは有鉛の1.0mm(goot SE-56010)。6年前の500gがまだ減らず「移行途中」。細かい作業には鉛フリーの0.6mm(HOZAN HS-372)を使い分け
  • フラックス:HAKKO FS-242 が「あると便利」。丸いビンが倒れやすいので、転倒防止ホルダーを自作して BOOTH に公開
  • 外す道具:スルーホールは吸い取り器(SPPON)、表面は吸い取り線(FR551)で使い分け。吸うだけならスッポンが手軽
  • 洗浄:サンハヤト FL-300、または99%以上のIPA。換気と溶剤の取り扱いに注意

高価で高機能なものを揃えなくても、普段づかいの電子工作はこのあたりの消耗品で十分回っています。まずは「はんだ・フラックス・外す道具・洗浄剤」を一通り持っておくのがおすすめです。


❓ よくある質問(FAQ)

Q. 電子工作は有鉛と鉛フリー、どちらのはんだがいいですか?

A. 市販の部品はほぼ鉛フリー前提で、RoHS の背景からも鉛フリーが標準です。ただ有鉛(共晶 Sn63Pb37=183°C)は融点が低く濡れ性がよいぶん作業しやすく、手持ちを使い続けている人も少なくありません。これから始めるなら鉛フリー、手持ちを使い切りたいなら有鉛、という現実的な選び方でよいと思います。いずれの場合も換気と手洗いには気をつけてください。

Q. はんだの線径は何mmを選べばいいですか?

A. 一般的な目安として、細かい部品や表面実装には細線(0.6mm前後)、一般的な工作やスルーホール・大きめの端子には1.0mm前後が扱いやすいです。1.0mmが太いと感じる場面用に0.6mmを1つ持っておくと、1206くらいのチップ部品も付けやすくなります。

Q. フラックスは別に用意した方がいいですか?

A. ヤニ入りはんだだけでも多くの作業はできますが、酸化した端子や、吸い取り線を使う場面では、別売りのフラックスを少し足すと濡れや吸いがよくなります。1本あると便利です。

Q. はんだ吸い取り線と吸い取り器、どちらを買えばいいですか?

A. 用途で使い分けます。スルーホールの穴を開け直す・部品を外すなら吸い取り器(スッポン)、表面のブリッジやパッド上の余分なはんだは吸い取り線が向きます。両方あると守備範囲が広がります。

Q. 吸い取り線でうまく吸えないのはなぜですか?

A. 多くは熱不足です。吸い取り線は自分自身が熱を奪うため、こて先の温度や熱容量が足りないと溶けきりません。線が酸化して黒ずんでいるとき(明るい銅色まで切り戻す)や、フラックスが足りないときも吸いにくくなります。

Q. フラックスの残りかす(残渣)は洗う必要がありますか?

A. 無洗浄タイプなら基本は残っていても問題ありませんが、基板がベタつくときや見た目をきれいにしたいときは、フラックスクリーナーやIPAで落とせます。IPAを使うなら、99%以上で水を含まないものを選ぶと跡が残りにくいです。

Q. 洗浄に使うIPAは何%のものを選べばいいですか?

A. 99%以上(できれば99.9%)の無水タイプがおすすめです。含水率が高いIPA(70%など)や水道水は乾きにくく、部品の下などに水分が残ると、絶縁の低下・ショート・腐食の原因になることがあるとされています。使ったあとはしっかり乾かすと安心です。


参考


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